第23話 おっさんと人間

 ムッとしたルシアがドアを少しだけ開けて顔を覗かせる。

 あの後じゃんけんで勝った方が廊下で寝るということになり見事俺は勝利した。

 そして今俺は廊下で毛布に包まっている。

 だがさっきから時折ルシアが顔を出してはこうして何かを訴えかけてくるのだ。


「そんな顔しても代わらないぞ」

「…失礼しました」


 そう言ってルシアは部屋に戻って行った。

 ちなみにずっとこれの繰り返しだ。

 きっと俺がここにいたらルシアは眠れないだろう。

 そう思った俺は一階に下りて行った。

 一階の礼拝堂の床は毛布が敷き詰められていた。

 そこではたくさんの子供たちが眠っている。

 子供たちの多くは獣人だったが、中には普通の人間も混じっていた。

 俺は音を立てないように注意しながら外に出た。

 すると扉前で番をしているラッシュの姿が目に入った。

 いや、ラッシュだけではない。

 ロウやガジュなどの革命の牙のメンバー十数名が各々周りを見張っていた。


「どうした? 眠れなかったか?」


 ラッシュが俺に問いかける。


「いや、いささか気をつかい過ぎる使用人がいるもんでな」

「なるほど」


 ラッシュが納得し頷く。

 俺はこの機に気になっていたことを聞く事にした。


「なあ、ラッシュ」

「なんだ?」

「革命の牙は孤児の保護もしているのか?」

「ああ。だが『保護している』というのは語弊があるな。どちらかと言えば革命の牙としての活動は後からついてきたものだ」

「そうなのか?」


 孤児の事を含めゲームにはなかった情報だ。


「ああ。獣人の子供は迫害され居場所を失う者が多い。我とジョットもそうだった。だから同じ境遇の者を救うために我らは孤児の保護を始めた」

「そうだったのか…だが中には人間の子供もいたようだが?」


 そう言うとラッシュは悲痛そうに顔を歪めた。


「あの子達はこの街のーーガジャルの犠牲になった者だ」


 ラッシュは爪が手のひらに食い込む程きつく拳を握りしめる。


「この街では強者が正義、弱者は蹂躙されるのみだ。コロシアムでの試合、あるいは強盗、強姦。あらゆる理由で親を失った子供達が路頭に迷っている。力のない者は死を待つのみ。だがーー」


 ラッシュの目に力強い光が宿る。


「そんな世の中は間違っている」


 その言葉には重みがあった。


「『人』は弱者に手を差し伸べられる生き物だ。だからこそ獣ではなく『人』なのだ。我はあの子達のために『人』の生きる世界を作ってやりたい」


 人間から迫害されてきた筈の目の前の獣人は誰よりも正しく『人』の心を持っていた。

 ーーそんなラッシュの言葉を受け止めた時だった。

 

「ラッシュ! 正面から大勢の足音が真っ直ぐ近づいてくる!」


 突然ロウが叫んだ。

 ロウは兎の耳を動かし状況を探っている。


「甲冑と衣擦れの音が聞こえる! 多分ガジャルの私兵とゴロツキだぜ!」

「くっ…皆! 戦闘準備!」


 ラッシュが言った時、正面の壁が轟音と共に破壊された。

 そして壁の向こうから現れたのはならず者と鎧を纏った兵の集団だった。

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