第21話 おっさんと男の覚悟
「なに?」
突然のルシアの指名に俺は眉を顰めた。
「見りゃあ分かるぜ。アンタも相当できるだろう?」
ルシアは相変わらずの無表情で何も答えない。
「ルシア、嫌なら断って構わない」
「おっと、断ってもいいがその場合うっかり手が滑ってジョットを処刑しちまうかもなぁ」
ガジャルがニヤニヤと笑う。
「ルシア、構わない。嫌なら断れ」
この決闘が流れても多少強引な手段を取ればいいだけだ。
「大丈夫です。受けます。ご主人様の手間を増やすわけにはいきません」
ルシアは真っすぐに俺を見つめる。
「わかった、ありがとな」
「はい」
「それじゃあ、決まりだ!! 明日を楽しみにしてるぜ? お二人さん」
ガジャルはそう言うと豪快に笑った。
◇
屋敷を出た俺たちはゲルファの大通りを歩いていた。
「アラベル」
ラッシュが俺の名を呼ぶ。
ん?
今一瞬、ルシアがピクっとしたような気がする。
「なんだ?」
「泊まる場所はもう決めているのか?」
「いや、まだだ。テキトーに宿でも取ろうと思ってる」
「やはりか…、それはやめておいた方が良い」
ラッシュは神妙な面持ちで言った。
「ここの人間は貴族を毛嫌いする者が多い。宿になんぞ泊まったら次の日にはどうなっているかわからん。ましてやルシアもーーっ!?」
呼び捨てにされた瞬間、ルシアがラッシュを鋭く睨んだ。
ラッシュは怯んで言葉を詰まらせた。
「……ルシア殿も一緒ならなおさらだ」
ラッシュがルシアの様子を窺いながら言い直した。
当のルシアは何事もなかったように澄ましている。
そこでちょっとした悪戯心が芽生えた。
「ルシアは『殿』なのに俺は呼び捨てなのな」
「お前がそう呼べと言ったのだ」
「そうだったっけな~? でもそれならルシアも呼び捨てで良いんじゃないか~?」
「アラベル、勘弁してくれ…」
ラッシュはルシアに聞こえない様、小声で言った。
「あの目は本気だった。次、呼び捨てにしようものなら我はどうなるか分からん…」
ラッシュが本気で怯えている。
どうでもいいことだがラッシュは反政府組織の幹部を務めている。
「ラッシュさん」
「っ!?」
ラッシュがビクッと身体を強張らせる。
犬耳メイドに怯える筋肉質な虎の獣人。
重ねてどうでもいいがこれでも反政府組織幹部である。
「察するに私達の泊まる場所のあてがある、ということでしょうか?」
「あ、ああ。その通りだ。良ければ我らのアジトに来ないか? 宿よりは安全なはずだ」
宿屋よりもレジスタンスのアジトの方が安全とは…。
「ん? だがジョットが捕まったってことはアジトもバレてるんじゃないのか?」
「…いや、違う。ジョットが捕まったからアジトも他の者も助かったのだ」
ラッシュが悔しそうに拳を握りしめる。
「ガジャルとその私兵がアジトの近くまで迫った時、ジョットは自ら囮になったのだ。結果、ジョットを捕まえて満足したガジャルはアジトに来る前に帰って行った」
「そうだったのか…」
ガジャル・ウィンブスという男は自身の標的以外にあまり興味はないらしい。
先ほどのやり取りもそうだ。
革命の牙幹部であるラッシュが目の前にいたというのに目もくれなかった。
「我らはジョットを必ず助けねばならない。誰よりも他者を思い、行動できる者の最期がこんなものであってたまるか。そんな世の中は認めない」
俺はラッシュから何をしてでもジョットを助けるという覚悟を感じた。
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