第20話 おっさんと勝負

 ボロボロの状態で吊るされたジョットの姿に俺たちは絶句した。


「気に入ってもらえたようだな」


 ガジャルが嫌らしく笑う。

 だがこれはチャンスだ。

 ジョットが目の前にいるのなら俺の転移魔法で逃がせる。

 

「ーー何?」


 転移させられない?


「おっと、お得意の転移魔法じゃ無理だぜ。石像の周りにはあらゆる魔法を無効化する結界が張ってあるからなぁ。どうする? アラベルさんよぉ」


 ガジャルがニタニタと笑いながら言った。

 そういえばゲームでゲルファのコロシアムでは魔法が使えなかったな。

 プレイしてた時はそういう特殊ルールだと思っていた。

 だが実際には裏設定で目の前のものと同じ結界が張られていたのだろう。

 ーーしかしその程度で優位に立ったつもりとはな。


「俺の魔法のことまで知ってるとは見た目の割に勤勉じゃないか、ガジャル」

「俺様は強い奴の情報は常に集めているんだ。アンタのことも知ってるぜぇ。俺様の『絶対ぶっ殺すリスト』上位だ! 喜びな!」

「ブ男に覚えてもらっても嬉しくも何ともない。キレイな姉ちゃんになって出直してこい」


 ガジャルは「がっはっは」と豪快に笑った。


「良いぜオマエっ! 最高だよ!! 大抵の奴は自分の武器を対策されると狼狽えるか、ひでぇと戦意を失う。だがオマエはそれを気にも留めてねえと来た!! たった今、オマエは絶対ぶっ殺すリストのトップになったぜ!!」


 ガジャルは暫く心底嬉しそうに笑っていた。

 だが、急に真顔になり言った。


「なあアラベル、俺様と一つ勝負をしようじゃないか」

「勝負?」

「ああ、そうだ。明日、俺様とオマエがコロシアムで決闘をする。そして勝った方が負けた方の奴隷になる。シンプルだろ?」

「『決闘前にジョットは処刑した』なんてダサいことしないなら受けてやる」

「そんな興醒めなことはしねぇさ! 分かりやすい『賞品』もあった方が盛り上がるからな」

「そうか。それならいいぞ」

「そう来なくっちゃなぁ!!」


 まあ、解決法を相手から提案してくれたんだ。

 俺としては都合がいい。


「アラベル、良いのか!? ガジャルはコロシアムのチャンピオンだぞ?」


 ラッシュが不安そうな声を上げた。


「心配すんなよ、負けねぇからさ」


 俺の言葉にルシアも無言で頷く。

 しかし、ラッシュはなおも不安そうにしている。


「アラベルの強さは知っている。だがコロシアムなら話は別だ。ガジャルはことコロシアムでの決闘では無敗を誇っている。何故かわかるか?」

「コロシアムにも結界が張られているんだろ?」

「そうだ。つまり決闘は純粋な力と技術のぶつかり合いになる。ガジャルはクズだが強さは本物だ。正直我は反対だ」


 まあ、ラッシュの気持ちも分かる。

 ゲームでもガジャルとはボスとして戦うのだがかなり苦戦した。

 しかもゲームでは主人公アルスとジョットとの二人がかりで戦って、だ。

 でも、何故だろうな?

 俺は今、目の前にいるコイツを全く脅威と思っていない。


「まあ大丈夫だって。俺に任せろ!」

「……わかった」


 そこまで言われては仕方ないと思ったのかラッシュが渋々引き下がる。


「じゃあまた明日な、ガジャル。遅刻すんなよ」

「待て」


 出て行こうとした俺をガジャルが呼び止める。


「俺様とオマエの試合なんだ。前座ぐらいないと盛り上がりに欠けるだろ?」


 そう言うとガジャルはルシアを指差して言った。


「そこの女っ!! オマエには前座としてウチの闘士と戦ってもらう!!」 

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