3章 闘争の街ゲルファ編
第19話 おっさんと成金闘士
道行くのは筋骨隆々な男たちばかり。
そして正面には巨大なコロシアムがそびえ立っている。
街全体がどこか荒っぽい空気に包まれている。
「帝国宰相の魔法は凄いな。あっという間にゲルファに着いた」
「便利だろ?」
得意気に言う俺にラッシュが頷く。
「私もご主人様について来て良かったのでしょうか?」
隣でルシアが問いかける。
「ああ。むしろいてくれた方が助かる」
「そうですか」
一見そっけないが尻尾がぶんぶん振れているので分かりやすい。
というかルシアのこういう姿も久しぶりな気がする。
最近はエリシアといることが多かったからなぁ。
「陛下は帝都ですよ、ご主人様」
ルシアのいつもより冷たい声音に背筋が震えた。
「…何でわかった?」
「勘です」
そう言うとルシアはプイっとそっぽを向いた。
前に城下町に出かけた時もだがルシアは拗ねるとそっぽを向く癖があるようだ。
「…痴話喧嘩は今度にしてくれるか? 帝国宰相」
「いや違うから!! ってかその帝国宰相ってのやめてくれ。『アラベル』でいい」
「そうか。では今後はアラベルと呼ぼう」
ん?
今ルシアの耳がピクっと動いた。
これはどういう意味だろう?
「んで、とりあえずこの書状を領主に持って行こうと思うんだが…」
そう言って俺はエリシアが用意したジョットの処刑を止める旨の書かれた書状を取り出す。
「我には『ガジャル』が素直に言う事を聞くとは思えん」
「だよなぁ…」
『ガジャル・ウィンブス』
ここゲルファの領主を務める男だ。
通常領主は貴族が務めるのだがガジャルは唯一の例外。
それにはゲルファの興業が深く関わっている。
ゲルファは闘技会によって栄えた街だ。
毎日のようにコロシアムでは闘士達が競い合っている。
そしてゲルファでは伝統的にコロシアムのチャンピオンが領主を務めることになっているのだ。
そして領主になる者はコロシアムのチャンピオンというだけあって血の気の多いものばかり。
特にガジャルは誰の命だろうが自分が気に入らなければ平気で突っぱねる。
いやそれどころか王命を伝えに来た使者が『行方不明』になったことすらある。
そんな奴相手だ。
一筋縄ではいかないだろう。
「まあ、それでもまずは正攻法で行ってみるか」
そうして俺たちはガジャルの屋敷へと向かうのだった。
◇
ガジャルの屋敷、客間。
俺たちはそこで成金丸出しの高そうなアクセサリーをジャラジャラと着けた筋骨隆々の大男と向かい合って座っていた。
「ジョットの解放だと!? オマエは俺様をコケにしに来たのか!!!」
目の前の大男ーーガジャル・ウィンブスが怒号を飛ばす。
そして高そうな指輪をいくつもつけた手を机に叩きつける。
その衝撃で机が凹んだ。
「これは王命だ。嫌だろうが従ってもらう」
俺がそう言うとガジャルは額に青筋を浮かべる。
「そうかよ。つまりオマエ達もジョットと同じで俺様に盾突くんだな?」
しかし一転、ガジャルはニヤリと笑った。
「オマエら庭を見ろ。いいもんが飾ってあるぜ」
ガジャルが顎で窓のほうを指す。
そこにはだだっ広い庭の中心に剣を掲げる巨大なガジャルの石像があった。
しかし俺たちの目を奪ったのはその剣の先端に吊るされたモノだった。
「ジョット!?」
ラッシュが声を上げる。
そう。
石像の剣の先には逆立った赤髪が特徴的な豹の獣人の男ーージョット・ライヴァが吊るされていた。
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