第17話 おっさんは一息つく暇もない

 ガラハルト家、客間。

 俺は演説が終わったエリシアを屋敷に招いた…のだが。


「なあエリシア?」

「はい」

「何でそんなところにいるんだ?」


 エリシアは向かいのソファーの裏に隠れていた。


「その…気にしないでください」

「いや無理だろ」

「で、でも謁見の間で会った時より近づいていますよ!」

「距離的な問題じゃねえよ!?」


 ソファーの陰からぐっとサムズアップするエリシアに思わず突っ込む。

 しょうがないのでエリシアの元へ向かおうと立ち上がるとーー


「こ、こっちには来ないでください!!」


 エリシアが真っ赤な顔で叫ぶ。


「…なんでだよ?」

「それはその…諸事情で…」


 俺は仕方ないのでソファーに座りなおした。


「大体さっきまでは大丈夫だったじゃないか」

「そ、それは女王スイッチが入っていたので…」


 初耳だぞ、何だそのスイッチは。

 そんなやり取りをしているとノックと共にルシアがティーセットを持って部屋に入ってきた。


「失礼致します」


 俺の前に紅茶を注いだカップを置くルシア。

 もう一つのカップをエリシアの前に置こうとして動きを止めた。


「その…陛下はどちらに?」

「あっ! ここ! ここです!」


 ソファの背もたれから両手だけ出してぱたぱたさせるエリシア。

 ルシアは困惑しながらもエリシアの元へ紅茶を運んだ。

 

「陛下、紅茶になります」

「ありがとうございます」


 ソファーの裏で紅茶を飲むエリシア。


「…ふぅ」

「なあエリシア」

「はい?」

「お前、少しアホになったか?」

「酷くないですか!?」


 顔だけ出して涙目で叫ぶエリシア。


「わたし一応女王ですよ!! 不敬罪…そう! 不敬罪です!」


 ソファーの裏で「ふっけいざいっ! ふっけいざいっ!」と謎のコールを始めるエリシア。

 今のエリシアは以前よりも女王らしく、それでいて子供らしくなった気がする。

 きっと色々と吹っ切れたのだろう。


「あ、あの私はどうすれば…」


 ルシアが珍しく本気で困っている。


「ほっといて大丈夫だぞ」

「し、しかし…」

「アラベルさん酷いです!」

「っ!」


 ん?

 今、ルシアの耳がピクっと動いた気がする。


「…それでは私はこれで失礼します」


 そう言ってルシアが部屋から出て行こうとした時だった。

 突然床に黒い渦が出現した。


「エリシア! こっちに来い!」

 

 こちらに駆けてきたエリシアを庇うように背に隠し、身構える俺とルシア。

 やがてその渦の中心から見覚えのある人影が現れた。


「…女王。我の願いを聞いてもらいたい」


 そこにはエリシアを攫った虎獣人の姿があった。

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