第8話 おっさんは気づかない
「え?」
俺の問いに陛下ーーいや、エリシアがぽかんと口を開けた。
「テキトーに話しても良いかって聞いてんだよ、エリシア」
「ひっ!?」
乱暴な口調にエリシアが身を縮こまらせ耳を塞ぐ。
俺は彼女の目線に合わせるようにしゃがんだ。
「なあエリシア? お前がそうなっちまうのも分かるけどよ、そうやって閉じ籠ったままじゃきっと後悔するぞ」
エリシアはただ震えるだけだ。
俺はため息を吐いて立ち上がった。
「まあ、また来るよ。じゃあな」
そう言って謁見の間を後にするのだった。
◇
翌日、謁見の間。
「ようエリシア、今日はお菓子を持って来たんだ。一緒に食わないか?」
「ぷるぷるぷるぷる」←震えるエリシア。
同日午後、謁見の間。
「なあエリシア、本は好きか? この前『農夫vs漁師~野菜か魚か~』って小説を読んだんだけどよ、これが泣けるんだ! 特に漁師がベジタリアンに目覚めるシーンな!」
「ぎゅっ!」←身を縮こまらせるエリシア。
翌々日、謁見の間。
「おーいエリシア、野球しようぜ」
「うるうるうるうる」←涙で瞳をいっぱいにするエリシア。
「な~、エリシア~。や~きゅーー」
「「貴様はやんちゃ坊主か!! いい加減にしろ!」
警護の兵士達が扉を開け叫んだ。
どうでもいいがこいつらは二人一緒じゃないと喋れないのだろうか?
「怒られちまった。じゃ、
そう言って俺は謁見の間を出る。
「待て! 最近の貴様の態度は目に余る! それが一国の主に対するーー」
何だ、一人でも喋れるのか。
俺はそう思いながら女兵士の言葉を無視し転移魔法で逃げた。
◇
「ふう」
俺はガラハルト家の屋敷の私室前に転移し一息吐いた。
「おかえりなさいませ」
「うおっ!」
突然ルシアに声を掛けられ思わず声が出てしまった。
「驚かせてしまい申し訳ございません」
「いや、気にしなくていい」
「ありがとうございます。……ところで全く関係ないのですが、先日ご主人様が読んでらした小説ーー」
「おお!! 『農夫vs漁師』な! あれ面白かったわ!!」
「巷では世紀の駄作と話題らしいですよ」
「マジで!?」
嘘だろ!?
あの名作が!?
俺が絶望に打ちひしがれているとルシアがぷいっとそっぽを向いた。
もしかしてーー
「ルシア」
「なんでしょうか?」
そっぽを向いたまま答えるルシア。
「もしかして、拗ねてる?」
瞬間、ルシアの尻尾がピンっと伸びた。
これは図星か?
「何のことでしょうか?」
澄ました無表情で答えるルシアだが尻尾が忙しなく動くせいでバレバレだ。
「本当は?」
「……少しだけ、本当に少しだけ拗ねています」
ルシアがうつむきがちに答える。
これは少しと言いつつ内心かなり拗ねているパターンだ。
そしてその原因に一つ心当たりがあった。
「『なんでも言うことを聞く』という約束がまだだったな、それのせいだろう? すまなかった」
「違います」
「違うの!?」
え?
じゃあ一体何が原因だ?
全くわからん…。
「最近あまり
ルシアが頭を下げる。
そういえばここ最近、ずっとエリシアのとこに行ってたからルシアとあまり話していなかった。
しかしそれで拗ねるとは…。
ルシアは存外見た目に反して人懐っこいのかもしれない。
「あ、じゃあさ」
そこで俺は一つ、思いついた。
「これから二人で少し出かけないか?」
「え?」
俺の提案にルシアが驚きの声を上げた。
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