2章 帝国女王再起編
第7話 おっさんは容赦しない
物々しい扉を前に俺は背筋を伸ばした。
扉の両端には重そうな鎧を纏った兵がそれぞれ立っている。
「アラベル・ガラハルトだ。陛下に謁見を願う」
兵士達は頷くとゆっくりと扉を開いた。
中に入って膝をつき頭を垂れる。
そして扉の閉まる音を聞いてから話始めた。
「陛下、この度宰相になりました、アラベル・ガラハルトと申しーーん?」
ふと顔を上げると玉座には誰もいなかった。
見間違いかと思い目を擦るが景色は変わらない。
俺は入口の扉を開けて兵士達に尋ねた。
「陛下の姿が見当たらないのだが…」
「「いいえ、陛下はいらっしゃいます」」
二人の女性の声が綺麗にハモった。
「いや、しかし……」
「「陛下はいらっしゃいます」」
…彼女らはそれ以上何かを言うつもりはないようだ。
俺は仕方なしに扉を閉じると再度玉座に向き合った。
相変わらず陛下の姿は見えない。
ん?
よく見ると玉座がごく微かに震えている。
もしや……。
俺は玉座に近づいてその後ろを覗き込んだ。
「ひっ!?」
そこでは豪奢なドレスを纏った長い赤毛の少女がプルプルと震えていた。
少女は小柄な身体を更に小さく丸め、翡翠色の瞳を涙でいっぱいにしている。
この少女こそ現バルファリア帝国女王ーーエリシア・バルファリアその人である。
ゲームでは民と兵を味方につけた彼女の活躍もあってアラベル・ガラハルトは討たれる。
そういう意味では俺にとって危険人物なのだがーー
「陛下」
「ひゃっ!」←身体をビクッとさせる陛下。
「この度宰相になりましたーー」
「ぷるぷるぷるぷる」←身体を震わせる陛下。
「アラベル・ガラハルトとーー」
「ぽろぽろぽろ」←大粒の涙をこぼす陛下。
……埒が明かねえんだけど。
でもまあ、正直この反応も仕方ない。
何故なら陛下は幼少期より先代の宰相ーーつまり俺の親父から恐怖を植え付けられてきたからだ。
親父は陛下を幼い頃から恐怖で支配し、当時既に高齢だった陛下の両親が他界した際に自身が帝国の実権を握れるよう準備してきた。
そして陛下が女王になった瞬間から帝国は今の支配的な体制に変わってしまった。
つまり、陛下にとって『宰相』とは恐怖の象徴なのである。
「あ、あぁ…」
目の前で呻きながら震えることしかできない陛下。
その姿はとてもじゃないが一国を背負う主には見えない。
だから俺はーー
「陛下、今から少々無礼な態度を取ってもよろしいでしょうか?」
彼女を『女王』として扱うのをやめた。
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