第6話 おっさん、戦うってよ
「よくやった、ドルバット」
俺はゴーレムの拳を左手で抑えながら言った。
見れば、もう一つの拳はドルバットが出したであろう土の壁に防がれており、その下には幼い少女がうずくまっている。
『あの』ドルバットが少女を守ったのか…。
ゲームでのドルバットからは考えられない行動だ。
このゴーレムも本来ならドルバットがボスとして搭乗していたものだ。
「いきなり出てきて邪魔してんじゃねえよ!!」
ゴーレムごしにチンピラめいた男の声が聞こえた。
「ドルバット、あの子供を連れて逃げろ」
ドルバットは一瞬だけ躊躇ったが悔しそうに「わかりました」と言って少女を連れ、走って行った。
そして、ゴーレムが俺に防がれた拳を引く。
「てめえ!! いきなり出てきて調子くれてんじゃねえぞおおおおお!!!!」
怒声と共にゴーレムが俺目掛けて両手を振り下ろした。
「ルシア」
瞬間、俺の後ろからルシアが跳び上がった。
そしてそのまま10メートル以上あるゴーレムを軽々と蹴り飛ばした。
「んなっ!?」
ゴーレムがバランスを崩し轟音と共に後ろに倒れる。
それを尻目にルシアは静かに俺の前に着地した。
ルシアはこと格闘術においてゲーム中最強の実力者。
この程度は朝飯前だろう。
「ありがとう、たすかーー」
「私を置いていきました」
「いや、それは急いでーー」
「私を置いていきました」
ルシアからとてつもない圧を感じる。
「…すみませんでした」
「側にいろって言ったくせに…」
ルシアが小声でつぶやいた。
見るからにふてくされている…。
聞こえないように小声で言ったんだろうけどこの距離じゃ意味ないからね。
というかこの年で聞こえないってなったら難聴系っていうよりリアル難聴の方疑っちゃうよ? おじさんは。
「勝ち誇ってんじゃねえぞ!!!」
立ち上がったゴーレムから声が響いた。
俺はこれ幸いと会話を切ってゴーレムに向き直る。
……隣のルシアがムッとしたような気がした。
「そういえば一応まだ終わってなかったな」
「一応、だと?」
目の前で凄む敵より味方からの無言の圧が怖いのは何故だろう?
終わったらしっかり謝らなければ…。
「これを見てもそんな事言えるのかぁ?!」
するとゴーレムの背中がボコボコと盛り上がっていき、それはやがて2本の腕となった。
「あぁ、そんなのもあったな」
「これがこのゴーレムの真の姿だ!! 4本の腕から放たれる連撃を耐えられーー」
その時、背中に生えた2つの腕が突然落ちた。
その断面は機械でも使ったかのように滑らかだった。
「は?」
男の口から間抜けな声が漏れる。
「てめえ何しやがった!? はっ! まさかその剣で斬ったのか!?」
違う。
俺は剣を抜いてすらいない。
ただゴーレムの腕を『転移』させただけだ。
俺はゴーレムの腕だけを対象に転移魔法を使い数ミリだけ転移させた。
たった数ミリ。
しかし物質の結合を絶つにはそれで充分。
数ミリ転移させられたゴーレムの腕は胴体との繋がりを絶たれ落下した。
それが今のからくりである。
「だが、まだ終わった訳じゃーー」
「いや、もう終わった」
瞬間、ゴーレムの動きが止まった。
そして突如、無数の小さなサイコロと化して弾けた。
無数の小さな石片となったゴーレムが辺りに散らばりその中心から一人の若い兵士が現れる。
「い、一体何がーーうわああああ!!!!」
空中に身を投げ出された兵士はそのまま重力に従い地面に叩きつけられた。
そして、小さな呻き声と共に気を失った。
こいつは……採掘場でドルバットを睨んでいた兵士か。
ゲームと違って現実ってのはどう転ぶかわからないな。
まあ、何はともあれーー
「これで一件落着だな」
「……そうですね」
未だに不機嫌そうなルシアが答えた。
…いや、終わってなかったわ。
そんでもってこっちの方が遥かに強敵そうだ…。
◇
翌日、シュライアの街の入口。
そこには俺とルシアを見送りに来たドルバットとその領民の姿があった。
「本当にありがとうございました」
ドルバットが感謝の言葉と共に頭を下げる。
「おう。とりあえず作ったシフト通りにやっていけば当分は問題ないだろう。あと細かい所はそっちで調整してくれ。それと…例の若い兵士は大丈夫か?」
「…シュライツのことですね。彼もまた、市民と同じように私の行いの犠牲になった一人です。しっかり向き合い、折り合いをつけねばなりません」
ドルバットが俯く。
しかしすぐに前を向いた。
「ですが任せてください! きっと和解して見せますとも!」
ドルバットは自身の胸を叩き言い切った。
「そうか、期待してるぞ」
「ええ」
そして、俺とルシアは転移魔法で帝都へと戻るのだった。
◇
ガラハルト家の屋敷、アラベルの私室。
「いやあ、3日しか経っていないのに随分久しぶりな気がするな」
「そうですね。ーーところで、昨夜の件なのですが…」
ルシアが少し言い難そうに切り出した。
そうだった。
昨夜、ご機嫌ななめだったルシアをなだめるために『何でも1つ言うことを聞く』と約束したのだ。
一体何を言われるのだろうか。
「ご主人様をーー」
「アラベル様っ!!」
突然、ルシアの言葉を遮って私室の扉が開け放たれる。
そして一人のメイドが血相を変えて飛び込んできた。
「アラベル様! 今までどこにいらっしゃったのですか!?」
「あぁ…、ちょっとシュライアまで」
「そうですか…ってそんなことはどうでもいいんでした!!」
なんだなんだ?
尋常じゃない慌てっぷりだぞ!
まさかゲームの流れを変えた影響がーー
「女王陛下への挨拶は済まされましたか!?」
……陛下への、挨拶?
「あー!!!」
そうだ!
完全に忘れてた!!
本当なら宰相になったその日のうちに陛下に挨拶をしに行かねばならないのだ。
しかし前世を思い出したり、破滅のことだったりですっかり忘れていた!
「すまないルシア。俺、すぐに行ってくる!」
「えっ!?」
俺は困惑するルシアの声を背に陛下の城へ向かうのだった。
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《あとがき》
いつも読んで頂き本当にありがとうございます。
第一章はこれで終わりとなります。
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