ミニシアターで恋をして

藤泉都理

ミニシアターで恋をして




 はて、この状況はなんでしょうか。


 ベッドのサイドフレームに背中を預けて。

 一つのコード付きイヤホンをそれぞれの片耳につけて。

 友人が床に立てた片膝を支えに左手で持っている、一つのスマホで流している映画を観て。

 スマホの小さな画面で観ているので自然と距離も近くて。座って床に伸ばしている足も時々くっついて。


 魔法使いの少年たちが活躍する海外のファンタジー映画だ。

 手に汗握る展開もあり、もちろんドキドキもする。

 けれど。

 こんな、居心地が悪くなる展開はないはずだ。

 顔が熱くなる展開も。


 友人だった、はずだ。

 距離も近い、仲の良い友人。

 肩を寄せ合うことも、抱き合うことも、しょっちゅうある。

 ただ、ほとんどが、みんなの前で、悪ふざけで。

 こんな二人きりで、しかも、口を閉ざして、の状況、は、初めて、なような。


(てゆーか。いつもはゲラゲラペラペラ笑って話すくせに、どうして今日はそんな無口なんだよ)


 おかしいな。

 映画を観る前は、めちゃくちゃ笑って話していたのに。

 映画が始まった途端、空気が一変した。

 あれもしかしていつの間にか、パラレルワールドに迷い込んじゃったのか。

 そんでもって、パラレルワールドの友人は無口と来たか。

 そうだそういうことにしておけば、うん。居心地は悪くない。むしろ。

 なんだ。なんか。

 おわ主人公危ない。


「え?なに?」


 笑う場面ではなかったはず。なのに、噴き出した友人へ、映画を観てから初めて顔を向けると、ささやかれたのだ。

 自分と同じように。

 映画館ではないのだ。

 声をひそめる必要なんてないのに。


「黙っていてもうるさいな」


 とても優しい笑顔を向けられながら。


「は?え?」


 こんな顔もできるのかと、驚くと同時に、せっかく平熱になっていた体温が急上昇した。











(2023.12.17)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ミニシアターで恋をして 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ