五
くるみが語り終えた後、沙織がいくつか補足した。
「この破片は、二年全員のお守りに入ってました。花田先生のにも。一年のは見てみましたけど、入ってませんでした。お守りを作り終えたときには絶対入ってなくて……だから、十六日の朝とかに入れられたんだと思います。机の上に置きっぱでしたし」
則人は二人から、鏡の破片を受け取った。布でくるみ、素手で触らないようにしている。その所作を見て麦は、あれも呪器なのだと悟った。
「美代ちゃんは、どうして死んじゃったんですか」
くるみが善蔵を、則人を、麦を真正面に据え、聞いてくる。
誤魔化せない、と麦は思った。友人を失い、必死にすがってきた子供に、嘘をつけるはずもなかった。しかし、人の恨みつらみが渦巻く世界を見せることは、本当に正しいのだろうか?
「真実が分かったら、必ず教える。ただ辛い話になる。それだけは覚悟をしておいてください」
「本当に、教えてくれますか?」
「絶対だ」
則人は力を込めて言った。
夕桟神社の邸宅で、三人は机を囲んでいた。二つの事実を確認し、戻ってきたところである。
まず、夕桟中学校の倉庫にある人代だ。それらすべてに、釘が打ち込まれたような跡が残っていた。
そして、鏡の破片が合計七個。夕桟中の二年、それと担任の花田から回収したものだ。美代のお守りを回収することはできなかったが、そこにも同様破片があるだろうと目された。
「それで、この破片は何なんですか?」
則人も善蔵も知った顔をしているから、麦は置いて行かれるばかりだった。積もり積もった疑問も氷解しない。
「
例えば、と則人が前置きし、麦を指さす。
「俺が麦さんを呪ったとします。麦さんは噛鏡を使えば、それを俺に返すことができる。条件は二つあります。
一つは呪った側が――つまり俺が、嚙鏡の破片を持っていること、もう一つは呪われた側、麦さんが嚙鏡本体を所持していること。
美代ちゃんは蛆釘で誰かを呪おうとして、逆に呪われてしまった。美代ちゃんのお守りは確認できてませんが、状況からして破片が入っていたのでしょう。呪詛返しが実行されると、嚙鏡は黒く変色します」
「蛆釘で相手を呪うには、その人が作った何かが必要。今回は人代が使われた……だがら法子ちゃんに、部屋に人代がなかったか聞いたんだ。もしあれば、それの持ち主が呪詛返しの犯人だから」
「はい。ただ、一足先に犯人が回収したのだと思います。窓が開いていたという話がありましたから、恐らくそこから。……犯人の行動はある程度推測できます。
まず蛆釘による呪いを受ける。これは美代ちゃんが誰かの人代を持ち去った、十四日以降のことです。犯人は嚙鏡のことを知っていた。恐らく、蛆釘についても。
このタイミングで美代ちゃんが一気に相手を殺さなかった理由は、推測するしかありませんが、多分怖かったんだと思います。迷信でも、いきなり殺すという選択はできなかった。
殺される前に呪詛返しを行おうと、破片を持たせる計画を立てた。お守りは、真っ先に思いついたでしょう。毎日くるみちゃん達が作っていましたから。
呪詛返しが成功したことは嚙鏡の変色で分かる。あとは人代を回収するだけです。その後は、全員分の人代に釘を打ち込んだ。釘でなくても、尖った物なら何でも良い。とにかく自分の人代にだけ穴が空いている状態を避けられれば。倉庫の鍵は、二年生なら誰でも場所を知っていたし、教師なら職員室のを堂々と使えます」
大まかな筋立てを語ってから、則人は善蔵の方を見た。
「呪器が眠っていそうな場所に心当たりはありますか」
「古い器物が置いてあるんはこの神社の蔵か、学校の倉庫の奥、住民が持ってることもありえるな……」
つまりはどこにでもあり得るということだ。これは佐古牛と同様である。
「問題は誰の人代に釘が打ち込まれたか……誰が呪ったかではなく、呪われたかです」
もっと言うと、美代ちゃんは誰の人代を持ち去ったか。麦は心の中で付け足した。
頭の中で理屈をこねくり回す。だが、それを追い抜くように、則人は言った。
「善蔵さん、頼みがあります。神主のあなたから、それとなく噂を流して欲しい……一度呪いを行えば、それは自分に降りかかる。逃れるには呪器を神聖な場所に収めるしかないと」
「犯人をおびき出すのか? しかし四六時中神社に構えているわけにもいかんやろ」
「目星は付いています。あとはその人物を見張って、決定的な瞬間を捕まえる」
則人は、机にぱらぱらと並んだ破片を見据えて言った。
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