第4話なんで先輩が俺の家に

「美味しいっ! これすごく美味しいよ、ぱぱ! 水もっ!!」


 ただ卵焼きとウインナー、米、水道水を飲食し、特に水は何杯もおかわりしていた。

 そして、当然の如く急な尿意にモジモジした彼女に急いでトイレの仕方を検索、スマホで見て勉強してくれっと言った。

 なのに、どうしてトイレットペーパーが吸い込まれているんだ。


「っす、すごいなっ!」


 とりあえず、褒められたそうな自称娘の頭を撫で。トイレットペーパーを引きちぎる。

 1ロール新品だったのに……もう芯ぐらいしかないじゃないか。


「トイレは済んだか?」

「っあ?! まだ!」


 今の今まで忘れていたようで、あの子はトイレの便器に座り。

 俺と目が合い、えへへっと見て欲しそうに笑ってきたので急いでドアを閉める。

 トイレまで褒めたそ——


『あの、返事がないし、物音がしたけど何かあったの?』


 やっば先輩っ! 先輩のことを忘れていた!!

 急いでポケットから十円を取り出した俺は、トイレの鍵を外から掛け。

 玄関のドアを勢いよく開いて、顔だけを出す。


「っあ、すみません、寝ていましたっ!!」


 学校帰りによったのか先輩は制服姿のまま、昨日と違う点といえば何やら袋を持っているぐらい。

 

「本当にすみません、えっと用事はなんだっけ、確かほん——」

 

 ほん……? 本……? 本ッ?!

 本を間違えて渡したのを、わざわざ家まで取りに来たってこと?

 というか不味い、先輩の本はトイレしてるんですけど、それを見られでもしたら話はもっとややこしくなりそう。

 ん……? というか、


「せ、先輩……なんで住んでいるとこ、知ってるんですか?」

「あぁ、あの、お見舞いしようかなって、クラスメイトたちに聞いたんだけど……なぜだか誰も知らないみたいで」


 申し訳なさそうに言ってくる先輩。

 バレた、これ絶対、友達がいないことバレてる。誰も知らないよ、教えたこともないし。


「それじゃ……どうやって」

「だからね、先生に聞いちゃった」


 てへっ、と舌を出して小悪魔的な笑みをする。

 おわっ、先輩のそんな表情、初めて見たかも……可愛い。

 って、そうじゃない、違う。

 あの担任の先生、生徒の住所をペラペラ喋り上がったのか?!

 いくら恋愛が推奨される時代だからって、守秘義務的なのはあるだろ。


「それでね、そのついでに本を間違えて渡したことに気づいたから、交換しようかなって思ったんだけど」

「っあ、そうだったんですね、俺も気づかなくてすみません。少し待ってください」


 土日に本買いに行こうとしてたのに、今?

 今、わざわざあの本を取りにきたってのか?

 不味い、不味い、そんなのってないよッ!!

 どうしよ。

 ドアを閉め、顔に手を当て、うずくまる。


「ぅぁぁぁぁぁあッ!! っぐぅぅぅう……くっ、くっくっく」


 唸り声が徐々に笑い声になり、それを我慢する。

 なーんてな。

 キッチン下の引き出しを開け、ピカピカのラノベを取り出し、包装を破き捨てる。

 せっかく休んだんだから、万が一のことを考えて代わりの本を買ってあるんだなーこれが。

 あの子を家で待っているように言うのは、苦労したよ。


「お待たせしました。少し、探すのに手間取っちゃって」


 ドアを開けると先輩は腕を後ろに組みながら、外観を見て時間を潰していたようだった。

 恥ずかしいな……こんなことになるなら、もっとカッコいい服装を着ればよかった。


「それにしてもすみません、俺も読んだのに中身が違うことに気づかなくって」

「ううん、しょうがないよ。中身じゃないもん」


 背中から本を取り出しながら謝る。

 けれど、先輩は全然怒っている様子が無く、かえって恥ずかしそうに頬を引っ掻く。

 いやー、めっちゃ優しい、もっと好きになりそう。

 ん……?

 待てよ。

 中身じゃない、ってどういうことだ?


「えっと……先輩、中身じゃないってどういうことですか」


 薄らと出かかった本を仕舞い、平然を装ってニコニコと聞き返す。

 すると、先輩は小指から1本、1本人差し指まで両手の指を合わせ、照れて恥ずかしそうにした。

 

「えっとね、実はあれね、初めてのサイン本で思い入れがあるんだっ」

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