第9話

「どうするんだ? イルス?」

「あ、ええと。……どうします?」


 俺は取り敢えず。マスターを促してジンを追って、雑居ビルの中へと入ることにした。


 この街は、多分ヴァーチャルミレニアム(千年電脳仮想都市)で当っているとは思うが、ここもサイバージャンクシティと大差ない屑箱の中で人々が生活をしているかのようだ。


 行き交う人々は、ほとんどがあやかしだが、皆疲れていた。人間は人間で、どいつもこいつも。くたびれて薄汚れた格好をしている。


 皆、鼠色か茶色が基調の服を着ていた。

 

 さながら、ここも丁寧な便所掃除が必要不可欠だろう。

 

 雑居ビルはどうやらホテルのようで、受付でジンがチェックインしていた。ジンは、俺たちの部屋も取ってくれていると思うが、いつにも増してニコニコとスマホをかざしてサインしている。


 ジンはそれを済ませると、小判のストラップが付いたスマホを振りながら、俺たちに「ここ。ここがいい。しばらく泊まろう」と、懐かしそうな顔をし、受付から奥の階段を降りてから、二部屋先にある部屋へと入った。


「あ! イルス! ジンちゃんが勝手に部屋へ入ってしまったぞ! 当然、俺たちの部屋も取ってくれたんだよな?」

「あ、マスター。金持ちのジンのことだから、その点なら大丈夫ですよ。ただ、人身売買組織ヒュドラグループの情報は、ここだと集めやすいかわからないですね。正直、俺はもっと街の中央を根城に……いや、この街を知ってから寝泊まりしたかったな……」


 ジンが、ドアからひょっこりと顔を出して、こっちへ来いと手招きしている。 


「それにしても、イルス。さっぱり、よくわからないことがあるんだよ。なんだって、あやかしなんてものを人身売買にするんだ? たまに半透明な時があるし、それに長生きし過ぎな奴らだし、そんなのが商品になるのかなあ?」

「はあ、需要ですか? うーん……俺にもさっぱりですよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る