第5話
階段を嵐のように掛け降りると、真っ正面に立っている奴から、首筋に手刀を浴びせた。高速の手刀はそのままガタイのいい真っ黒な服の男の首を的確に捉えた。グキッと派手な音がして、男の首はそのまま脇腹まで折れ曲がる。ガタイのいい他の男たちがイスラエル制のウージーを一斉に向ける。
俺は身を低くして、右、左と、男たちの隙をついて、リズムよく回し蹴りを次々と打っていった。激しい蹴りによる加圧で、ボンっと鈍い打撃音が店内に続き、男たちの腰や腹の筋肉が俺の回し蹴りの圧で破裂していく。
男たちが銃を撃つ前に、全ての男たちが完全に死滅していた。
「ふぅ、こいつらは前に受けている依頼の奴らだな。だが……そいつは……」
一人だけ、恐ろしいほどに背の高い男が突っ立ていた。
その男がユラリと、派手な服の腰に差してある長刀を抜いた。
派手な服と同じ、黄金色に輝いたその刀身は、薄暗い店内で男の服と一緒に光を反射している。
俺は、首をちょっと傾げた。
そいつをよく見ると、身体に半透明な部分があったからだ。
「キィ―――ーーーーーーーーーーー!!」
男は奇妙な耳障りな声を発しながら、俺の傍へとにじり寄ってくる。
「いけないイルス! 早くそいつを倒して! その男は仲間を呼んでるの!」
ジンが俺が昔買ったポンコツショットガンを持ち出して、階段から顔をだしていた。マスターも起きだして、ジンの隣で顔をだしていた。マスターは険しい顔で、俺の方へジェスチャーを送った。
そのジェスチャーは、「即効で倒せ」の意味だった。
「OK! フン!!」
俺は全身の筋肉をギュッと絞った。グギュっと身体中から鈍い音が発せられ、俺はそのままの姿勢から前方へ一歩踏み出した。相手の腹部に腰を低くして正拳を放つと、店内全体を激しい衝突音が襲った。
ズドンとした音と共に、派手な服装の男が後方へ勢いよく吹っ飛んだ。
「またのご来店を、お待ちしております」
俺は派手な服装の男が破壊したドアに向かって、丁寧に頭を下げた。
…………
「ジン。今日からは二階の一つのベッドで寝ろ。俺とマスターは一階の椅子で寝ているから」
「そ、ありがと」
ジンにあてがった部屋は、元々は俺の部屋だった。
昔は、この部屋は「 キアニーナ・ビステッカ」の前の店長さんの部屋だった。前の店長さんは、今は海外へ行っている。
「ふあああっ。と、俺はもう寝るぞー」
二階の踊り場からジンと一緒に覗くと、一階へ降りたマスターが、寝袋片手にテーブル椅子に寝っ転がっていた。今日はもう刺客はこないだろうと思う。明日から、俺はアンダーワールドの入り口を本格的に探すことにした。
ひょっとしたら、アンダーワールドへの入り方をジンは知っているのかも知れないな。
「おやすみ」
俺はジンに言うと、そう楽観視もして一階へと降りた。
次の日も相変わらずの雨だ。
それも黒い雨。
これも、天からのお恵みってやつだ。
俺はジンが起きるまでに、依頼を片付けに早々と外へ出た。
お気に入りのレインコートは、昨日にマスターが着ていたのでずぶ濡れだった。
「いっつも、乾いていないんだよな……このレインコート」
俺は愚痴りながら依頼人に会うべく。
真っ暗な朝の街を一人で彷徨った。
今は早朝の4時のはずだ。
依頼人は居酒屋の主人なので、今の時間は当然寝ている。依頼は悪漢退治。昨晩に倒した奴で全部だろう。もう、依頼料を貰えばこの仕事はひと段落だ。
次はジンの依頼か……。
アンダーワールド……一体、どこにあるのやら……。
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