第5話

「ああ。マスター。そいつは、スラム街から来たジンっていう名の俺の新しい依頼人だ。報酬はがっぽり。敵は壮大。寝食昼寝付きのプラチナ級の依頼だがね」

「ほほう。うーん……その……報酬はがっぽり? で、間違いないんだな?」

「ああ……」

「そうか。そうか……。うんうん。良かった良かった」

「ふふん。だが、敵は、あのアンダーワールドの組織だと思うんだ」

「……それ、本当?」

「ああ」

「別の依頼はないの? 変えられないの?」

「ない。変えない」

「……」


 ジンは首を傾げる。

 世間知らずもいいところだが。

 いや、裏の世界を知らな過ぎだ。


……


「お! 凄いなあ! この金……?!」


 しばらく雨の音に耳を傾けて、これからの計画を順に練っていたが、マスターの晴れやかな声で思考が停止する。カプチーノの入っていたカップを洗っていた手を止め。キッチンから振り向くと、マスターがジンとスマホ同士をコードに繋げて、金を貰っているようだった。


「ああー!! マスターー?!」


 俺は生まれて初めての、間の抜けた声で叫んだ。

 途端に、マスターがカウンター席から失神して転げ落ちた。その顔面蒼白の顔は白目を開けて、泡まで吹いている……。

 

「やれやれ……ジンはスラム街でも世間知らずだな。こりゃ……」


 俺は素に戻ると、ジンの可愛い顔をこれでもかと冷たい目で睨んだ。

 それでも、ジンはこちらに向かって、ニッコリ微笑んだ。


 床で倒れているマスターを介抱してやるために、二階へ負ぶって行くとジンがのこのことついて来た。


 もう母と自分の命は安全だと思っているようだ。

 信用第一だからジンには言わないが……正直途方もなく厄介だった。投げ出したいくらいに。


 アンダーワールドに行くには、軍と同じ兵器会社の武器を装備している必要があるし、例え俺の身体が1000体あったとしても、短期間で入り口を調べるのは可能性ゼロだった。サイバー・ジャンクシティのどこかにあるといわれているあやかしたちの超巨大都市。あやかしには、人権はなく。代わりに簡易保護制度があるくらいだ。それだけ、いつぴょんと現れてはひょっこり消えてしまうほどの不可思議な存在だし、そんなあやかしを捕えるほどの酔狂な奴らはそこにしかないと俺は考えていた。

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