第5話

「黒い雨。降り止まないね」

「ああ、そうだな。天がゴミ箱用に洗浄剤を撒いてるんだ」

「酷い言い方ね」

「ああ……」


 俺はふと、このジンの頭から生える耳を見つめた。

 どうやら、狐の化身ようだ。

 あと、どうやって、俺のことを知ったんだ。

 俺は底辺に生きている。

 便所虫のような生き物を掃除する。さながら、何でも消すブラシのような奴だ。


「俺の居場所をどこで知った?」

「掲示板……スラム街の……」

「ああ、あの昔の相棒の奴が戯れに書いたやつか……よく探せたな。まだ、あったのか?」

「ええ。私、そのスラム街で生まれたから。土地勘があるの」

「へえ……そいつは……まあ、俺よりはマシだな」

「ふふ……」


 俺はそういうと、再びキッチンへ行き。カプチーノを二人分作ってやった。

 外の降る前は、至って止むことはない。

 今まで、ここ数年。太陽が生み出す日陰すら見た者はいない。


 出来立ての湯気がたつカプチーノをカウンター席へ持って行くと、その時、カランカランという音と共に、マスターがずぶ濡れの恰好で帰ってきた。


「やあ、悪いが。もう一つ頼むよ」

「あ、お疲れ様です」


 ジンは素早く狐耳を髪の中へ隠した。

 ここのマスターは気の良い人で、細かいことは詮索しないし、金払いはいい……。


 

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