第2話 エピソード 1 アサシン

 カラン、カランとガラス製のドアを開けて、一人の少女がカウンター席へと歩いていく。


「いらっしゃいませー」

 

 その少女は掃除をしている俺を見て、クンクンと鼻で嗅ぎ。ちょっと小首を傾げた。少女はカウンター席から離れると、モップの片付けに入った俺の背後に回った。そして、俺の今は休ませている感覚でもわかるほど、激しく後ずさったようだ。


「うん? 何か御用で?」


 俺は振り向いてから首を傾げた。


「あ、あの。ちょっといいですか?」

「ええ……」

「ここに、アサシン兼掃除係がいると聞いたのですが? もしかして……」

「……」


 俺はぎょっとして、口を静かに開いた。


「誰に聞いたんだ……」


 俺は途方もない殺意と警戒を込めた瞳を少女に向けた。


「ヒッッ! ちょっと待って! 気に障ったんだったら謝るわ! ごめんなさい!」


 頭を下げた少女の髪から突然、動物の両耳が現れた。

 少女はそれに気が付いたようで、尚更慌てふためいた。


「あやかしか……」

「う?!」


 ここサイバー・ジャンクシティにも、大昔の日本から伝来するあやかしがいる。元々、ここは日本という国だったようだ。


「あの……あなたに依頼に来たの……」

「それで……?」

「それで……お願いしてもいい? 母がとある組織に捕われてしまったの……グスン……」

「それで……?」

「助けてほしいのよ……」

「それで……?」

「……母を捕まえた組織は《ヒュドラグループ》といっていたわ……依頼料はGNPの50倍だすわ」

「?! な?! 冗談だろ!!」

「無理?」


 少女は小判のストラップが付いたスマホを差し出した。

 俺もスマホを取出し、スマホ同士でコードを繋いだ。

 途端に、俺のスマホが悲鳴を上げるかのようなカウント音を発しだした。

 液晶に映し出された金額は、確かにGNPの50倍は軽くいっていた。

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