食糧庫

 話によると、盗賊達は蟲の対処に困っているようである。アジトの下に住み着いて、ことあるごとに出てきては、食糧庫を漁っていくのだそうだ。リカルドは、直接見ないことには何とも出来ないと言った。統領は船長室の外にいた部下に、リカルドを食糧庫へ案内するように命令した。


 「統領、あんな子供になにかできるとは思いやせんぜ? 何だってあんな事頼んだんですかい?」


 リカルドが去った後の船長室で、ハクフンはナマズ髭をいじりながら統領に耳打ちする。


 「駄目でもともとだからだ。元々引っ越す予定だったろ。それを急ぐか余裕があるかの違いしかねぇ。あいつじゃなくても良かったが、あいつじゃ駄目な理由もねぇ」


 統領は何でもない事のように言い放った。そして、付け加えるように小さな声で、「アジトの場所を知ったんだ。失敗したら殺すだけだ」と付け加えた。



 ★



「どうなんだぁ? できそうかぁ?」


 ムカつく男に連れられて、食糧庫へとやって来た。食糧庫は船底にあった。床板や、壁板が削れたり割れたりして、岩がむき出しになっている。よく見ると岩と岩の間に細い隙間がある。予測するにここから蟲が出入りしているに違いない。


「わからない。蟲を直接見ないことには何も」


 男はぼさぼさ髪の後ろを掻きながら扉の縁に肩でもたれかかっている。その体制のまま、がらんとした部屋全体を見回している。


「なんでお前はそんなに強気なんだぁ? 盗賊に捕まるのは初めてじゃねぇのか?」


 舐められればろくな事をされない気がするのもあるが、それは態度の理由であって胆力の説明にはなっていない。


「人間ならもっと恐ろしい人達から、それ以外ならもっと強い生き物から、それぞれ逃げてきたばかりかだから」


 男はニヤニヤと嬉しそうに笑った。


’「そうだよなぁ? 居るよなぁ? 大砂海には盗賊なんかよりももっとやばいやつがうようよ居るよなぁ?」


「……」


「俺はウチジクってんだ。よろしくなぁ?」


 男がすこしなれなれしくなった気がするので、しばらく無視をする事に決めた。この男と仲良くすると、自分に悪い影響がありそうだった。


 食糧庫はがらんとして広く、全体として乱雑な印象を受ける。部屋の隅にいくつも積まれた木箱。転がった樽。閉じている物、開いている物。箱の大きさもまちまちで、僕の腰ほどの物から手のひらに収まる物まで。蟲のしわざというよりは、この杜撰な管理が原因ではないだろうか?


 何か一つ適当に触ってみようかと思い、一番近くにあった樽へ向き直る。丸まれば僕がぴったり入れそうだ。両手を後ろに縛られたままなので、しかたなくしゃがんで、額ですこし押そうと顔を近づけた。ベコン!!という音と共に樽が急に跳び上がり、驚いて「きゅ!!」っと変な声が出てしまった。


「あひゃひゃひゃ! なんだぁ? 驚いたのかぁ? きゅ! だとよ! あひゃひゃ!」


 恥ずかしいのと、ムカつくので、ウチジクの無視を続ける。見れば、樽の底から赤く平たい蟲が出てきていた。座布団ほどの大きさで、樽を動かした所をみるに力も十分にある。さっき岩の細い隙間を見た時は、もっと小さな蟲を想像していた。この薄い体をぴったり溝に這わせて出入りするのだろう。

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