第七話 生命のバランスを維持する者たち
女性の「雪の妖精は残酷」という話を聞き悲しそうにしながら俺の服の袖掴み心配させないように無理に笑ったエナ。
すると奥の工房らしき場所から目つきが悪く白髪に白髭のお爺さんがやってきた。
「それは違う」
お爺さんは額に流れる汗をタオルで拭いながら先ほどの女性の話を否定し出した。
「あなた、今日はもうあがるの?」
どうやらお爺さんはガラス職人らしい。
「いや、水を飲もうと休憩に入ったがお前が有る事無い事教え込んでいたから気になってしまってな」
お爺さんは水をコップ一杯飲み干すと俺たちの前に座り話を始めた。
「雪の妖精は確かに動物、植物の生命を奪うのは事実だけど……」
お爺さんはエナを見つめ優しい目をした。
「それは他の三人の妖精も一緒全ては神から与えられた妖精たちの役目なんだよ」
「ただ、一つだけ違うのはそれぞれ正の命と負の命のバランスが違うことただ、それだけ何だよ」
お爺さんはそれからたくさんのことを教えてくれた。
正の命は生命を与えること、負の命はその逆で生命を奪うこと。
夏の妖精は春の生物から生命を奪い夏の生物へ与える。
秋の妖精は夏の生物から生命を奪い秋の生物へ与える。
そして春の妖精は正の命が多く、たくさんの生き物に命を与える。
そして冬の妖精つまり雪の妖精は負の命が多く、たくさんの生き物の命を奪うがこれが一番重要なのだという。
「雪の妖精がいなければ生命のバランスがおかしくなってしまう」
今度は女性が持ってきた温かそうなコーヒーを飲んで話を続けた。
雪の妖精によって冬を越す少数の生命と越せない多くの生命の振り分けが行われなければこの世は多くの生きる生命で溢れかえりパンクしてしまうという。
動物や植物は狩ったり食べられたりして一定の量が増えたり減ったりすることにより自然と数を調整し合っているがやはり限度があるという。
それらを調整してくれるのが妖精たちの役目なのである。
「ワシは雪の妖精が住むといわれている国、スノーアイランド出身だがこれが真実」
エナは低くて優しい声のお爺さんをじっと見つめ嬉しそうなしていた。
お爺さんは大きくて太くそして厚い手でエナの頭を撫でた。
「ワシはスノーアイランド出身の者として雪の妖精を心の底から敬愛しているんだ。それはスノーアイランドの国民全員がそうしている」
今度は女性が梱包した白い箱をエナに渡してにっこりと笑った。
「このガラスの小鳥は君に一番似合っている。ここで出会ったことを忘れないでおくれ」
「うん!」
元気に頷くエナ。元気になって良かったと俺は胸を撫で下ろした。
話が終わった頃、ようやく自分が欲しいガラスが見つかったソフィアがやってきた。
「お待たせしました!私はこれにします!」
ソフィアが持ってきたのはお酒を入れるグラスだった。
「これで美味しいお酒を飲めば見て飲んで楽しめます!」
悩みに悩んで決めたガラスのグラス嬉しそうな女性に渡すソフィア。
喜んでくれて何よりだな、彼女の可愛い笑顔を見てそう思った俺だった。
一部始終を見ていたルーヴは勢いよく現れ何かを手に持っていた。
「私はこれが欲しいです!私にもプレゼントしてください!」
鼻息が荒くなり頭を下げてお願いしてきた。
「分かったから落ち着け……」
ルーヴは「ありがとうございます!」とお礼を言ってソフィアと同じく女性にあるものを渡した。
ん?ガラスの街というからルーヴもガラスを買うと思ったけどこれは……。
ルーヴが女性に渡したのは魚を加えたクマに似た獣の木彫りだった。
「せっかくだからガラスにしたらいいのに……」
「いえ!これに一目惚れしました!この繊細な彫刻さばきと堂々としたベリズリーの姿!実に素晴らしい!」
そういえばこいつに何度か襲われたことあるな……。
クマみたいな獣って言ってたけどベリズリーって言うんだ……。
女性は呆れる俺を見て笑いながら「一応、ベリズリーの木彫りはノースオーシャン王国の民芸品でありお土産だからね」とフォローした。
そうだ、これはプレゼント彼女たちが喜べばそれが一番良いこと。
ここまでは順調にクリスマスプレゼントを喜んでもらえている。
一人外で待つグレスを除いては……。
「グレス、何か欲しいものはないのか?」
グレスだけクリスマスプレゼントをしていないから俺は尋ねた。
「欲しいものなんてありません……」
こちらを向いてくれない彼女は怒っているのかそれとも待ちくたびれて疲れたのか、俺は気になってしまった。
結局、この観光でやっと今話した気がする。
「それでは最後に王国の都に行きましょう!」
エナな俺の耳元でヒソヒソと呟いた。
「まだ、グレスさんにクリスマスプレゼントをしてないですよね?次の都で何かプレゼントしてください」
全く、なんて気の利く女の子なんだろう。
グレス一人だけプレゼントがないのによく気がついたな。
エナはなぜか嬉しそうに再び俺に小さい声で話してきた。
「頑張って最高のプレゼントをしてあげてくださいね!」
「おう!」
何でこんなに背中を押してくれるのか知らないけれどとりあえずこれで全員にプレゼントをあげることができる。
しばらく馬車に乗り都心へ向かうともう日が暮れていた。
都は多くの人が賑やか歩いており道沿いにレンガで作られた店は明かりを灯していた。
馬車から降りて人の多いたくさんの店に挟まれた大通りを歩くと洋服や靴、少しおしゃれなバーみたいな店があった。
「すごい栄えているな……プレザント王国には見れない光景だ」
俺が圧倒されているとルーヴは思い出したかのように話しかけてきた。
「前プレザント王の時にはこれ以上商店街は栄えていたんですよ」
な、何で返せばいいのやら……。
今の王様は心を入れ替えた王国の発展に努めている。
だけどまずはこんなに人が笑顔で溢れる王国を目指さないといけないよな。
今度はソフィアが横に来て話しかけてきた。
「スカイ様は何か欲しい物はないんですか?」
「そうだな……」
欲しい物か……昔から物欲がない俺にとって一番困る回答だな。
「特にないかな?」
今ならさっき同じことを言ったグレスの心が分かる気がする。
グレスに無理に何かをプレゼントしようとするのも返って迷惑なのかもな……。
「特にないとは……困りましたね」
日本で生きていた時、親によく言われたこと。
もちろん子供の頃はヒーローのフィギュアやグッズ、ゲームを欲しがったりしてたけど高校生になる頃にはそんなことよりも誰かに褒めて欲しくてチヤホヤされたくてひたすらに勉強を頑張ったり生徒会長になって評価を得るのに必死だったからな……。
「気にしなくていいぞ」
俺は笑って誤魔化した。
そうやって大通りを歩き時々、服屋やバックなどが売っているお店に立ち寄っていた。
楽しそうにしているエナやソフィア、ルーヴとは反対に店に入ろうともしないグレス。
つまらなそうというよりも何かを考えて悩んでいるように見える。
そろそろ宿に戻る時間となり結局、彼女の欲しいものが分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます