第六話 ノースオーシャン王国を観光します!
「うぅ、寒い……」
外に出ると寒がりのグレスは身震いして腕をクロスさせて縮こまり寒がった。
露天風呂へ入るとすぐに体が温まり極楽気分を味わう三人。
上を見れば月明かりが綺麗な夜空。
「あの時も星がこんなに綺麗な夜空だった」
つい数日前の出来事なのに何故か懐かしく思ってしまうグレス。
エナも夜空を見上げた。
「グレス、あのね……」
「どうしたの?」
夜空を見上げたまま聞き返すグレス。
「寒い季節がやってくるとみんな人肌が恋しくなるの……そういう人たちをたくさん見てきて思ったことがあるの」
エナの言葉に戸惑うグレスとソフィア。
この子は何歳なの?
なぜ年上の私が恋愛について指導されようとしているの?
そんなグレスにお構いなく話しを続けるエナ。
「相手に気持ちを伝える時、素直にならないと自分の気持ちは絶対に伝わらないよ。気づいてくれるものだと思っていたらいつのまにか誰かに取られちゃうよ」
何も言い返せなかった。
年下なのにまるで自分よりも恋愛経験がある年上の女性のように見えてくる。
「そして、自分の気持ちを知りたいなら自分に正直になって真剣に向き合うこと!いつまでも自分という心を押さえ込んでたらいけないよ!」
幼女なのに……まるで私の心を見透かしているよう。
「はい……」
そうなのかもしれない……自分の気持ちを知りたいと思うことにして自分の揺らぐ感情を……いえ違うわ、それを認めてしまうとその後が怖いだけなのかもしれない。
もし気持ちを伝えた時、振られてしまったら?嫌われてしまったら?前のような関係に戻れなくなったら?
取り返しのつかないようになりそうで怖い。
たからそうならないように自分を見つめ直そうとしてそうしなかったんだ。
彼を好きだと認めるのが怖くて……。
だけど……エナが言うほど私にとっては簡単なものじゃないんだよ。
私は弱い心の弱い人間なのだから……。
なんだから暗い雰囲気のグレスを見てエナは急に立ち上がった。
「そうです!明日一日はみんなで観光しましょう!」
エナはグレスに気を利かせて提案した。
観光すればきっとグレスとスカイの距離は縮まるに違いないと考えたのだ。
もちろんエナは正々堂々とソフィアも一緒に観光してスカイとの距離を一緒に縮めてもらおうと思っていた。
「ソフィアもグレスももちろん観光するでしょ?」
二人ともエナの誘いに断りきれず仕方がないと困った顔をしながらも頷いた。
翌日……。
スカイ一行はスノーアイランドへの旅を一時中止しノースオーシャン王国を観光することになった。
「エナ、案内よろしくな俺にはよくわかんないから……」
スカイは初めての土地の地理が分からないため昨日の夜、観光を誘ってきた案内役をエナなお願いをした。
「任せてください!まずは130年以上時を刻んでいる大きな時計がある教場を案内します!」
しばらく歩くと歴史を感じる白い教会のような建物が見えてきた。
エナの説明によるとこの教場はノースオーシャン王国を開拓するにあたり建てられたらしくそれから数年後に時計が設置され以後130年この土地の人たちと共に時を刻んできたという。
「130年も……歴史のある建物も時計なんですね……」
ルーヴがありがたそうに見つめている。
分針が動くときに聞こえるカチっという音に歴史を感じているのかグレスとソフィア、そしてエナが微動だにせずじーっと見惚れていた。
「まるで姉妹だな」
彼女達のその姿に笑ってしまったが本当に可愛らしいと思ってしまった。
次にエナが案内したのはガラスの有名な街だった。
古くからガラスで作られた石油ランプにより街を照らし続けており、今ではガラスで作られた工芸品が多く飾られている。
一つの古い店に入ると中はガラスの工芸品がたくさん置かれており、愛想の良い中年女性がこちらにやってきた。
女性は色鮮やかに輝くガラスたちに自信を持っているのか「全て私の旦那が作ったおすすめだから好きに見ていきなさい」と腰に手を当てながら言ってきた。
「どのガラスも綺麗な色で輝いている……素敵」
目を輝かせながらソフィアがガラスで作られた皿やコップに石油ランプ、そして可愛らしい動物を見つめていた。
ガラスたちを舐めるように見回し、羨ましそうにしているソフィアを見ていると買ってあげたくなった。
そういえば、こっちの世界ってクリスマスとかあるのか?
せっかくだからいつも俺とために頑張ってくれているこいつらにプレゼントしてやるか……。
「ソフィア、一つだけ欲しい物を買ってやるぞ」
ソフィアはお金を出そうとした俺の手を止めて申し訳なさそうに俺を見た。
「そんな、悪いですよ……」
目を力一杯閉じて歯を食いしばっている。
本当は買って欲しいのに俺を気にしているのだろう。
時々俺の方を見て目線を逸らす。また目線を合わせてくるのを見ると相当自分の心と葛藤しているのだろう。
「いいから、今日くらい甘えろって」
「……はい!」
ソフィアは一瞬、じっと見つめてきて固まっていたがすぐに目がなくなるほど嬉しそうな笑顔を俺に向けた。
ソフィアが迷っている間、エナも会話を聞いていたのか羨ましそうな顔をしていた。
「エナも好きなものを一つプレゼントしてあげる、クリスマスプレゼントだ!」
「くりすます?」
俺の言葉に不思議そうな顔をするエナ。
この世界にクリスマスはないらしい……。そういえばあれはイエス・キリストの誕生を祝う日だったっけ?知らなくて当然だ。
「良い子にしていると優しいおじさんが欲しいものをプレゼントしてくれるんだよ」
俺の説明が悪かったのか余計に不思議そうに顰めっ面になるエナ。
「ご褒美みたいなもの?」
「そういうこと!好きなもの選んでおいで」
ソフィアと違い、エナはすぐに決まっていたようだ。
「私これが欲しい!」
小さな手のひらを見せてくるエナ。
手のひらには白い箱がありその中には100円玉ほどの大きさで白くて可愛らしい小鳥の形をしたガラスが二匹入っていた。
「この小鳥のガラスでいいの?」
俺は確認のためにエナに聞いた。
「うん!この白い鳥がいいの!」
子供らしく嬉しそうにガラスの小鳥を見つめている。
そこにさっきの中年女性が笑顔でエナに喋りかけた。
「その小鳥はここら辺にしか生息していない珍しい鳥なんだよ」
女性の話を聞いて嬉しそうな顔をし二匹のガラスの小鳥を大切そうに見つめるエナ。
「ちなみにその小鳥は雪の妖精と呼ばれているんだよ」
「へぇ、この小鳥は雪の妖精と呼ばれているんですね」
俺は今後の人生であまり役に立たない豆知識だったけどいつか誰かに教えられたら感心されそうだと思い一応覚えておこうと思った。
「貴方たち観光客だろ?ちなみにもう一つの雪の妖精の話を知っているかい?」
「いえ、知りません」
少し自慢げにしているが気になったので話を聞いてみることにした。
「春夏秋冬全ての時期に妖精がいると言い伝えているのだけれど冬、つまり雪の妖精は特に残酷なんだ」
妖精が残酷?可愛らしくて子供っぽくていたずら好きだけど森とかを守ったりするイメージなのに……。
女性はエナから白い箱を預かり包装しながら話をし始めた。
「すべての春、夏、秋の妖精たちはその季節に生きるすべての動物、植物に命を与えると言われているんだけど……」
「雪の妖精は冬にやってきて雪を降らせ動植物の魂を吸ってエネルギーを蓄え違う地域に魂を求め飛んでいくと言われているんだ」
「そうして魂を吸いお腹いっぱいになった妖精は自分が生まれた場所へ戻り次の冬が来るのを寝て待っている恐ろしい妖精さ」
「そんな恐ろしい妖精がいるのですね……」
俺はそう返したがエナは悲しい表情をして俺の服の袖を掴んでいた。
「どうしたのエナ?」
「ううん、何でもない」
エナの表情は無理して俺に笑いかけているように見えた。
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