第五話 ノースオーシャン王国に到着しました!
本当にバカな人。
こんな私のことを心配するなんて……。
馬車に揺られながら背中に貴方の体温を感じれて嬉しいけれど恥ずかしい感情でまたおかしくなりそう。
寒いのは苦手……だけど、馬車での出来事で心も体も暖かい感じがする。
彼が私に自分の毛皮の服を羽織らせたことや凍える私を後ろから抱いて温めてくれたこと。
私に怒鳴ったときだって不思議と嬉しかった。
私の心配をしてくれたんだって……。
本当に頼りのない人だけど、時々見せる男らしさ?それともただの優しさ?どっちが分からないけどそう言うところに心が惹かれといく……。
あぁ、もしかしたら私……こういう人がタイプなのかな?
守ってあげなきゃって思うけれど結局彼に守られている。そんなことに気づくたびに嬉しくなる。
強い自分だけ見てくれているんじゃない、私の弱いところも必ず見つけてくれて気にしてくれて助けてくれようと必死になってくれる。
きっとルーヴやソフィアにもそうなんだと思う、きっと……。
だってそれが彼の優しさだから。
そう、だから羨ましい。
素直に彼に抱きつけるルーヴのことが……。
根暗でコミュ症のくせにそれらが出ないくらい素直になれるソフィアのことが……。
私は……結局強く当たってしまうばっかり……。
きっとこんな私のこと嫌いなんだろうなぁ。
出会った日からこの馬車の出来事全て……全て貴方がただ優しい人だけのこと。
もし、他の男の人だったら私はとうに知らん顔されているはずだもの。
こんな私は嫌い。16歳にもなってほんと子供みたいでバカみたい。
だから、諦めなきゃいけないのかもね。
自分の気持ちに素直になれないのなら、貴方の優しさに触れて温かくなる心の衝動を押さえつけなければいけないのなら、この辛さを味わい続けるのなら……。
きっと貴方を諦めた方が心の痛みは和らぐに違いない。
あの時分からなかった感情……それはきっと恋。
素直になれない恋ってこんなにも辛いんだね。
貴方には分からないでしょう。
だから今日も……これからも貴方からの優しさを貰わないように冷たくするの。
それくらい私は臆病で意気地なしなのだから。
だけど……だけど今だけは馬車が止まるまではこうして欲しい。
寝たふりをするのだって大変なのよ。だけど、不思議と辛くないの、幸せだから……。
馬車はノースオーシャン王国で泊まる宿まで賑わう街を揺れながらも雪を力強く踏み進んだ。
俺の足はもう感覚がない……。
さすがに長時間も俺の太ももに16歳の女の子グレスとはいえ座っていると足に血が回らなくなって痺れている。
「みなさん、宿に着きましたよ」
御者がこちらを向いてニコッと笑い教えてくれた。
「ありがとうございます」
そう言ってルンルンと降りていくルーヴやソフィア、続いてエナもゆっくりと降りた。
「俺たちも降りよう」
俺の声でグレスは立ち上がり馬車を降りたけど俺は足が痺れて立てなかった。
「やばい、さすがに足が……」
俺は必死に足を揺らして痺れを誤魔化そうとしたけどダメだった。
どうしたんですか?
心配そうにソフィアが馬車の中を覗きながら俺に声をかけた。
「すまん……足が痺れた……」
情けない声を出しまったけど流石にこの状態ではしばらく立てない。
「もう、仕方がないですね……」
ソフィアは俺に肩を貸してくれた。
「面目ない……」
本当に情けないけどソフィアのおかげで何とか馬車を降りる方ができた。
降りると一瞬で分かる、ここは栄えている。
王様が言っていた何でも売っていると言う意味が伝わるほど賑やかな店がずらりと並んでいる。
まるで異世界なのにヨーロッパにいるようだな……。
そして何よりも俺たちが泊まる宿、まるで城みたいに大きい。
この宿だけレンガでできておらずしっかりとしている。
もう空は暗くなっていたのでとりあえず宿へと入った。
入ると分かる床や階段が大理石でできておりきちんと赤いカーペットが敷かれている。
すると優しそうな白髪のお爺さんが俺たちに話しかけてくれた。
「お待たせしました、スカイ様御一行ですね?お部屋の空きがあるので三部屋とってあります」
お爺さんは慣れた接客で俺たちを気持ちよく迎え入れてくれた。
「では、ご案内します」
大理石の階段を二階ほど登ると俺たちが泊まる部屋が三つ並んでいた。
「こちらの三部屋になりますお食事は二階、大浴場は一階にございます。ご自由にお使いください」
お爺さんは説明を終えると深々と頭を下げ、階段を降りた。
とりあえず始まるのが部屋決めだ。
俺は男だから一部屋使うとして残りの部屋は女子を二人ずつに分ければ良い。
だけど……ソフィアは寝ると物凄くうるさいいびきをかく。
騒音過ぎである村では獣と間違えられたくらいだ。
だから俺はある提案をした。
「とりあえずソフィアとエナは別の部屋にしよう」
もちろん、グレスとルーヴは嫌そうな顔をこちらに向けたけど文句まではいえなかった。
こんな幼い女の子をいびきのうるさい女と一緒にすれば虐待もいいところだ。
「分かりました……」
渋々俺の提案を受ける二人。
すまんな……、どちらかが犠牲になってくれ……。
「でもどうやって決めますか?」
ルーヴは俺に尋ねてきた。
「くじで決めよう」
これこそ公平である。
前にジャンケンをした時にソフィアがズルしたことがあるからな。
俺はさっきのお爺さんから紙を二枚もらい片方には丸を書き、片方には何も書かないで小さく折った。
手のひらに折った紙を乗せると二人に差し出した。
「どっちか選んでくれ。丸が書いてある方がエナと、何も書いてない方がソフィアとだ」
グレスはソフィアをみて嘲笑うと皮肉を込めた一言を放った。
「これは公平ですね、じゃんけんとやらは誰かさんがズルしましたからね」
下手くそな口笛を吹きながら目線を逸すソフィア。
「私はこっちにします!」
先に紙を取ったのはルーヴだった。
「あ、先を越されました……では私はこちらで……」
グレスはしまったという顔をして残った紙を取った。
「では開いてくれ」
俺の一言で同時に紙を開ける二人。
恐らくハズレを引いたルーヴは膝から崩れ落ち、対照的に当たりを引いたグレスは小さくガッツポーズをして満面の笑みを浮かべていた。
「よし、部屋も決まったことだしみんな疲労が溜まっていると思うからこっからは各自行動にしよう」
みんな納得したのか各自の部屋に入るとオオカミ人間のためお風呂が嫌いなルーヴ以外はすぐに大浴場へと向かった。
やっぱりみんな寒かったんだな、一人を除いては……。
それはグレスに引っ張られながら大浴場へ楽しそうに向かうエナ。
エナだけ寒さに強いのか馬車の中でも平気な顔をしていた。
感覚神経バグってんのか?それとも子供は寒さに強いのか?
一度も寒いそぶりを見せなかったエナ。
雪国の子供はみんなそうなのだろうと思い俺もまずは冷えた体を温めるために大浴場へと向かった。
女子の大浴場ではザワザワと数十人の人の声で賑やかだったが、エナの周りには不穏な空気が張り詰めていた。
その理由は辺り一面白い大理石でできておりたくさんの人が一気に入れるほどの大浴場なのにグレスとソフィアは遠く離れていたからである。
エナにはすぐに二人が顔も合わせないようにしている理解ができた。
「二人ともスカイさんのことが好きなんだ……」
どちらかを応援するわけにもいかずモヤモヤとするエナはどうすればいいのか分からなくなっていた。
だめ、もう限界……。エナはそう思い大浴場には他にも人がいるがそんなの関係なかった。
「二人とも仲良くして!」
ザワザワとしていた大浴場は一瞬で静まり返りエナの叫びに視線が集まる。
だが、周りの人たちはエナが幼い女の子ということもあり気にせず会話を続けた。
「エナ?」
グレスは驚いた顔でエナを見つめ少し怒った様子の彼女に近寄った。
「二人とも……スカイさんのことが好きなんでしょ?」
グレスは目がキョロキョロしだし慌てた様子でエナの言葉を否定した。
「わ、私はそんなことありえない!」
そんなグレスとは正反対のソフィア。
彼女は真面目な顔をしてグレスを見た。
「私は正直好きとか分からないけどスカイ様は唯一心許せる人……だから私がスカイ様の一番になりたい」
真剣な目に圧倒されるグレス。
そんな目で見られたら私はやっぱり彼のことなんてそこまで思っていないんだ……。
グレスは諦めたのかニッコリと笑いソフィアを見た。
「分かってる、私よりもソフィアの方がきっスカイ様とお似合いなはず」
痛い……激しく訴えてくる鼓動を無理やり抑えつけようとするたびに心の中の何かが崩れそうになる。
まるで違う誰かになって自分を押し殺しているような気がした。
きっとエナはそんなグレスの寂しさに気づいたのだろう。
グレスの悲しげな表情を見ながら心配する幼女。
「二人とも外のお風呂へ行かない?」
エナは優しく笑って二人の手を引き露天風呂へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます