第四話 恋する女子は強くてか弱いらしいです
馬車の中から外を見ると俺たちを囲んでいる廃人のような人たちが数人いた。
フラフラと立ちまるで乗っ取られているような感情がない顔をしている。
顔色も悪いのか青ざめており精気のない目をしている。
張り詰めた空間、そしてお互いに相手がどう出るかをじっと待ち続けている。
廃人の一人が倒れそうになりながら一気にルーヴとの間を詰めた。
俺にとってはものすごいスピードだったけど彼女にとってはそうでもなかったらしい。
「甘い!」
ルーヴはオオカミに変身していたため大きな爪で廃人を裂く。
廃人は痛みを感じないのか体が裂けて倒れたが悲鳴一つも上げずにそのまま倒れた。
俺が合図となり一斉にルーヴたち三人に襲いかかる廃人たち。
廃人たちの単純な攻撃を交わしながら見事に攻撃を入れていくルーヴたち。
「さすが俺の仲間たち、俺が出る幕はないようだ」
「え……弱くて出る幕がないんですよね?」
少し冷たい目で見てくるエナ。
エナの正確な言葉にそういうことは言わなくていいんだよとも言えない俺はフル無視をした。
そして、恐らくエナが想像してた以上にルーヴたちが強くて安心したのだろうか、震えも収まっている。
とりあえずここは切り抜けそう……。そう思い安心して見ていた。
人数的不利だったのに廃人がみるみる倒れていく。
よく見ると倒れた廃人たちは肉は雪に溶け、残ったのは悪趣味なボロボロの黒いローブと骨だけになっていた。
「人間じゃないのか?」
俺は溶けていく廃人たちを見てこの世のものとは思えないほど無惨な姿に背筋が凍りつき震えた。
「……」
エナは黙ったまま下を向いて何も喋らなかった。
何でこいつらはエナを狙うんだ?もしかしたら相当偉い皇族なのか?色々な憶測が浮かんでくるが今は考えないことにした。
圧倒的な強さで廃人たちを倒していくルーヴたち三人は片付け終わったのかこちらへ向かってきた。
俺は馬車のドアを開けて出迎えた。
「すごい!あっという間だったな!さすがだ!」
俺は三人を讃える拍手を力の限り送った。
「ありがとうございます!」
ルーヴとソフィアが嬉しそうな顔をして馬車に乗ってきた。
グレスは相変わらず嬉しそうにしていないけど小さい声で「どうも……」と軽く頭を下げていた。
うん、グレスはいつも通り平常運転!だけど全く目を合わせてくれない……。
俺、嫌なことしたかな?
全員が完全に倒し切ったと思っていたが俺はグレスの延長線上にある木に隠れていた一体の廃人がグレスに襲いかかるが見えた。
「グレス!危ない!」
俺は馬車に乗ろうと屋根に当たらないように頭を下げたグレスを突き飛ばした。
廃人の一撃は俺の腕をかすめた。
「くっ!」
刃物のように鋭い攻撃。
ルーヴやグレスたちはこんなやつらを簡単に倒していたのか?
俺はそのまま背中から地面に倒れた。
改めて自分が弱いことを悔やんだ。
「スカイ様!」
尻もちをついたグレスはすぐに起き上がり廃人に蹴りかかり強烈な一撃を入れた。
廃人は吹き飛ばされ、そのまま溶け出し骨だけになった。
グレスは普段見せないほど焦った様子で我を忘れて俺を心配していた。
「スカイ様!大丈夫ですか!怪我は?」
グレスは俺の頭を膝に置き顔を下げ心配そう俺を見ている。
こうやって膝枕されて見上げる彼女の顔は何か新鮮だな……。
「グレス、ありがとう大丈夫だよ」
安心したのか目を閉じるグレス。
「よかった……」そう聞こえたように思ったけどはっきりと聞き取れなかったので「すまん、何て?」と聞き返した。正直デリカシーがないよな……。
「何でもないです……いえ、ありがとうございます」
今度は小さいけれど少し明るいく高い声がはっきり聞こえた。
それもいつものようにツンツンとした言い方ではなく何故か嬉しそうだった。
俺の目の前には目を閉じて少し笑っている顔、そして後頭部に感じる彼女の太ももの温もり。
廃人から傷を負わされた腕はヒリヒリして痛いけど何だか幸せだなぁ、しばらくこうしていたい。
そういうわけにもいかずソフィアは馬車から飛び降りてきて俺の脇を抱えた。
頬を膨らませながら俺をじっと睨んでくる。
「ほら!いつまでそうしているんですか?グレスが困っていますよ!」
怒っている様子のソフィアはそのまま俺を持ち上げて馬車へと乗った。
グレスも立ち上がり静かに馬車に乗る。
まただ、また顔を合わせてくれない。もしかして太ももを堪能してたことバレたのか?
「とりあえず変な奴らは全員倒したので進みましょう」
ルーヴは御者にそう伝えた。
「わ、分かりました」
いつのまにか馬車に乗っていた御者は慌てて外に飛び出して進むために鞭で馬を叩き走らせた。
それから数日、何事もなく進むことができた。
もうすぐノースオーシャン王国へ着くところまで来た。
「くしゅん!」
グレスが可愛らしいくしゃみをかました。
「寒いか?」
俺は心配してグレスを見たが彼女は強がったのか「大丈夫です」とだけ言い膝を抱えて小さく丸まった。
いや、寒いんだろう……。
体が震えている、毛皮の服は貸してしまったし。
どうしようか悩んでいる俺を見たエナはツンツンと肩を突いてきてある提案をした。
「みんなでくっつけば多少は暖かくなるんじゃないですか?」
なるほど、良い提案だけどグレスが俺とくっつくのを許してくれるのか?
絶対に許さないだろうな……。
だけど震えるグレスを見ているともう考えてはいられなかった。
獣を狩ったり戦っているときのグレスと違って今は冬眠を失敗した小動物のようにか弱くなっている。
「よし!みんなでくっつくぞ!」
俺がそう叫ぶとルーヴとソフィアは喜んで飛びついてきて俺の両脇はすぐに埋まった。
グレスを心配して言ったのに、寒さに強そうな二人が飛び込んできてどうするんだよ。
もちろんグレスは痩せ我慢して俺の方へは来なかったけど相変わらず寒さに震えている。
見てられなくなつまた俺はグレスの腕を引き背中を抱き締めて座った。
「な、何するんですか?」
抵抗しようとするグレス。
「いいから!凍え死ぬぞ!」
初めて俺はグレスに怒鳴った。
心の底から誰かを心配するとこんなにも感情がこもってくるんだと初めて分かった。
グレスは驚いていたけれど素直に俺の言うとおりに俺に背中を預けた。
黙り込むグレス。
少し言いすぎたかな?感情に任せて怒鳴ってしまったから怒っているに違いない。
そう思ったけど静かに俺に寄りかかってきた。
あれ?許してくれいるのか?それにしてもこうも密着すると自分の心臓の音かグレスの心臓の音が分からないくらい体に響いる。
いや、彼女は毛皮の服を着ているんだ、俺の心臓が激しく動いているんだろう。
だって……女の子にこうやって抱きつくの初めてだしそりゃあ緊張するよ、仕方のないことだよね?
何故か左右からは睨みつけられるような冷たい視線が刺さる。
数時間経ったのだろうか……。
グレスは寝たのか全体重が俺にもたれかかっている。
さすがに女の子とはいえ脱力されると重い。
足も痺れてきたしそろそろ限界が近い……。
そう思っていると前から御者がこちらに顔を向け大声で叫んだ。
「もうすぐノースオーシャン王国との国境に着きます!」
よし、もう少し我慢しよう。
ツンツンしていて俺に口調が強いけれどいつも俺を助けてくれるし頼りになる彼女に一秒でも長く休んでもらうために。
痺れて足の感覚がなくなってきているけど大丈夫!死にはしない!
そうして数分後、ノースオーシャン王国の門へと辿り着いた。
恐らくこの王国の騎士団らしき鎧を着た人たちが馬車の中をのぞいてきた。
ルーヴはドアを開け俺に王様から貰った紹介状を見せるように言ってきた。
俺はポッケから招待状を出して騎士団の人に差し出した。
「どうぞ」
騎士団の人は受け取り一分ほど舐めるように見たあと、こちらを見て敬礼をした。
「プレザント王国の貴族様でしたか、大変失礼しました。ようこそノースオーシャン王国へ!」
ようやく俺たちは第一の目的地ノースオーシャン王国へ辿り着いた。
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