第三話 恋のライバル誕生!静かなる争いの開戦!

 その夜、エナはグレスやソフィアとお風呂に入っていた。


 ゆっくりと浸かる三人は脱力感で一杯になりぼーっとしていた。


 エナは思い出したかのようにグレスの方を向き質問をした。


「グレスさんはスカイさんのことをどう思っているのですか?」


 急な質問それもスカイのことに関してのこともあり動揺するグレスは目を大きく開けて急に叫んだ。

「な、なぜそんなことを急に!」


 エナはグラスの反応を不思議そうに追い打ちをかける言葉を投げた。


「スカイさんに話す時口調が強くなるのに話していない時は優しい目をして見ています。それが不思議で気になってしまいました」


グレスは黙ったまま湯船に口を浸からせて黙り込んだ。


「もしかして……好きという感情ですか?」

 エナの一言に驚いたのはソフィアだった。


 急に立ち上がりソフィアも動揺している様子でグレスに尋ねた。

「も、もしかしてグレス……スカイ様のことが好きなのですか?」


「そんなわけない!と思う……」

 否定しきれない自分を余計に恥ずかしく思うグレスはのぼせたのかそれと恥ずかしいからか顔が赤くなる。


 ソフィアは思った。自分も好きか分からないけれどコミュ障の自分が唯一恥ずかしがらず話せる相手はグレスとスカイ。


 だからこそ自分もスカイのことが好きなのか分からないけれど気にはなっているためもしかしたらグレスと自分は同じ気持ちなのではないかと……。


「取られたくない……」

 拳を強く握り誰にも聞かれないように小さく呟くソフィア。


 城の女性専用の大浴場では今、小さな恋の戦いが幕を開けようとしていた。


「我も来たぞ!」

 そこに王様が入ってきた。

 何故か熱くなっている大浴場。そんなことも気にせず王様は湯船に入りエナの近くに寄った。


「エナよ、今日は我の部屋で一緒に寝よう」


 エナは嬉しそうに目を細め笑った。

「はい!」きっと彼女は自分より少ししか年が離れていない王様をお姉さんのように思っているのだろう。


 そうして次の日、いよいよスノーアイランドへ向かう。


「では、王様行ってまいります」


「うん、よろしく頼むスカイ」

 エナとの別れを寂しそうにする王様は少し目が赤くなっていた。


 きっと初めて妹のような存在を近くに感じて嬉しかったのだろう。


 「そうだエナ、昨日話したことは誰にも言わないこと、約束だ」

 王様は優しくエナの頭を撫でる。


「うん、分かりました」

 エナも名残惜しそうにして必死に涙を堪えていた。


 昨日一緒に寝たと言っていたけどこんなにも仲良くなるなんて、お互いに本当の姉妹のように感じているんだな。


「エナ、そろそろ行こう。スノーアイランドまでは数日かかるはずだから」


「はい」

 エナの必死な歯を食いしばり涙を流さまいと堪えながら返事をしたため声がこもっていた。


「招待状だ。落とさないように」


「ありがとうございます。では行ってきます」

 俺は王様から招待状を受け取り馬車に乗った。


「それでは出しますよ」

 御者の一声で馬車が動き出す。


 思わず涙が溢れる王様。

「きっと会いに行くからな!私はいつまでもエナの姉だからお前を忘れなんてしないから!」


「うん!短い時間だったけどお話ししたこと忘れないよ!さようなら!」

 エナも堪えていた涙が溢れ出し止まらなかった。


 子供ながらに声をあげて泣くエナに対して王様は馬車が見えなくなるまで必死に手を振っていた。


 白く冷たい空気が漂う馬車の中はエナの悲しげな泣き声が響いており、みんな同情したのかただ見守るしかなかった。


 しばらくしてエナが少し落ち着いた頃、やはり寒いのかみんな体を縮こまらせていた。


 一人、オオカミ人間のルーヴは楽しそうに馬車の後ろを走っているけれど……。


 何より驚いたのはエナは寒さに平気だったこと。

「エナ、寒くないのか?」

 俺は思わず聞いてしまった。


「はい、平気です……」

 泣き止んだからか少し声のトーンが下がっており寂しそうに答える。


 それとは裏腹にグレスは震えており体を手のひらで擦って温まっていた。


 俺も寒いけど、女の子がこんなにも寒がっているのは可哀想だ。


 そう思った俺は自分の毛皮の服をグレスに被せた。

「ほら、こうしたら多少マシだろ?」


「さ、寒くなんてありません……返します」

 グレスは俺の毛皮を掴み俺に返そうとしたが俺は彼女の手を押さえた。


「無理すんな、こういう寒さは男の方が強いお前は温まっておけ」


「で、でも……」

 グレスは珍しく申し訳なさそうな顔をして俺を見ていたけど俺も引かない。


「いいから黙って言うことを聞け、これは命令だ」

 俺はそう言いながらグラスの肩から崩れかけた毛皮の服をかけ直すした。


「あ、ありがとうございます」

 目を合わしてはくれなかったけど感謝してくれている。

 それだけで十分だった。


「ずるい!私も寒いのに!」

 ソフィアはグラスを羨ましそうに見ていた。


 何が羨ましいのか俺には分からなかったけど多分相当彼女も寒いのだろう。

「すまん、これ以上貸したら俺が凍死してしまう……」


「じゃあこうします!」

 ソフィアは俺に体をくっつけてきた。


「こうすれば多少マシにはなると思います!だけど……こうした方が温まりそうですね!」


 ソフィアは俺の膝に座り自分の背中を俺の胸に押し当てた。


「お前!それはさすがに恥ずかしいだろ!」

 俺は顔がソフィアに当たらないような引いていたけど彼女はお構いなしだった。


「こうしたらもっともっと暖かくなるはずです!」

 そう言うと今度は俺の腕を掴み自分の体を包むようにした。


 恐らく俺の顔は真っ赤だったのだろう。

 エマは興味津々に俺とソフィアを見ておりグレスは目を向けないように横を向いていた。


「お前、根暗でコミュ障なのによくこんなことできるよな……」


 呆れながら俺はソフィアに言うと彼女は少し怒ったのか小さい声で「スカイ様の時は何故か素の自分を出せるんです!」と強い口調で返してきた。


 この時ソフィアは自分の行いを後悔していた。

「これじゃあ私の心臓の音がスカイ様に伝わってしまうかもしれないじゃん」心の中でそう思った。


 だけど、グレスよりも少しだけリードしたような気がして嬉しかったのはここだけの話。


 途中休憩をしながら進んでいくと楽しそうに走っていたルーヴが並走するように横に並んだ。


 こちらを見て何かを喋っている。

 俺は馬車の窓を開けてルーヴに尋ねた。


「どうかした?」


 ルーヴは走りながらも大きい声を出し「囲まれています、気を付けてください」と俺に注意を促した。


「え?何だって?」

 風により掻き消されるルーヴの声は俺には届かなかった。


「ですから!囲まれています!」

 さらに大きな声を出すルーヴ。


「あぁ!……ごめん!もうちょい大きい声で!」

 あと少しで聞こえそうだけど……本当に申し訳ないルーヴ。


「だ・か・ら!何者かに!囲まれています!」

 腹から声を出したルーヴの声はようやく俺に聞こえた。


 俺はルーヴに親指を立てて聞こえたことをハンドサインで伝えた。


 まじ?どこから追いかけられていたんだ?

 とりあえず正体が分からない以上こっちからは手を出さず様子見をしよう。


 俺は女の子に聞こえないようにグレスとソフィアの耳元でルーヴに言われたことを伝えた。


「分かりました。エナにバレないように警戒します」

 グレスの心強い一言、彼女は本当に頼りになる。


 実際、16の女の子とは思えないほど強いし……。


 しばらく警戒していると少しだけ解放された更地に入りかかった。


「敵襲!」

 その瞬間、ルーヴが声高く叫んだ。


 馬たちがが急に止まる。すぐにグレスとソフィアが外に出た。


 俺はというと……止まった衝撃による慣性の法則により馬車の中で思い切り前へ吹っ飛び頭を打った。


 ちなみにエナはグレスがきちんと支えていたため無償で済んでいる。


 カグカグと震えるエナ。

 俺はエナの肩に優しく手を置き「大丈夫、エナはみんなで守るから」と外に出ようとした。


「邪魔になるからエナを見守っていてください!」

 馬車から出ようとした俺を止めたのはグレスだった。


 グレスはいつにも増して真剣な顔で俺を見た後、襲ってきた奴らを睨んでいた。

 

 俺だって力になりたかったの……。

 震えるエナは恐怖に襲われているのにも関わらず俺に同情の眼差しを向けてきた。


「何か……すみません」

 幼女に謝られる俺。


「うん、大丈夫……平気平気。あははは!」

 俺は笑って誤魔化したけど、自分の力のなさに情けなくなった。


 そう、いつだって助けてくれたのはグレス。

 彼女がいなければ俺は転生してすぐに死んでいたんだから。


 本当に彼女には頭が上がらない。

 そうして俺はエナと一緒に応援することになった。

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