第3話 登竜門③
銃撃戦の音。人が叫ぶ声。人が泣く声。
「おい!何ぼさっとしてんだ
湖畔の近くで行われる戦争では味方同士が倒れていく。
地面のぬかるみは天の行く足を遮るどころかそこに踏みとどまらせていた。
ランズ準戦闘部隊【ホデリ】
ホデリは準戦闘部隊と呼ばれているが実態は戦闘部隊との違いがあるわけではない。ではなぜ準なのか?答えは簡単だ。
何者でもないからである。
「あいつら容赦ねえんだよ」
清十郎の右腕になる前にまず槓子と組めということで一週間ほどたったころだ。
仲はそれなり……槓子にしては珍しく落ち着いた声だったので天はそれがとても印象的で覚えていた。
「え?一週間後に戦うホデリですか?」
天はその言葉が少し疑問だった。清十郎に聞いたときは臆病者の集まりだと聞かされていたのだ。そんなやつらが容赦がない?印象とは真逆のことだったのでひどく驚いた。
「お前、清十郎さんにあいつらは臆病だーとか聞かされていないか?」
もちろんそう聞かされていた。この人と組んでずっと思っていたが槓子と清十郎はなんでも長い付き合いらしい。
最初の任務から、敵の本拠地への突入そして……元党首の暗殺……
「やっぱりそう聞かされてたか……あの人の評価はあてになんないからな、いいか天、覚えとけよ?この世で一番強い人間はな?何者でもない凡人だ」
目の前の敵は天をめがけて飛び込んでくる、その目はどこまでも虚ろに見えた。
何かにとりつかれたような表情、何かを陶酔するような目、すべてが憎悪と苦しみに魅せられた僕だった。
木の影に隠れる能力は二人。
一人は言うまでもなく、天だ。もう一人は物を任意のタイミングで直角に曲げる
彼の持つマントラの使い方は非常にシンプルである。
「おい天!相手に俺がいると察知される前に決めるぞ!早く
「分かってる!すぐ渡すって!」
「おう!行くぞ!
弾丸は一発一発丁寧に打っていく。だがその腕に”正確性”など無い。
彼は任意のタイミングで
弾丸の速度は秒速300メートルである。
彼の攻撃は秒速300メートルから繰り出される防御負荷の必中攻撃である。
ロジックは簡単だ。彼の攻撃には正確性が必要がなく、圧倒的理論により構築されているからだ。
パンケーキの定理……というものを知っているだろうか?
二枚のパンケーキを切るナイフは必ず存在するというものだ。槓子はこれを応用した攻撃をしている。二枚のパンケーキを必ず切るナイフが存在するということはつまり……この世には……
絶対に切れないパンケーキなど存在しないということだ。
だが銃弾を任意のタイミングで発動させることは一般人には不可能である。
そう”一般人”には……
圧倒的練習量?違う
圧倒的実戦経験?違う
槓子は能力の発現後、一週間のうちにこの能力を使いこなすに至った。
それを可能にするのは槓子の圧倒的な
「ここにいる敵はあと十人もいねえはずだ!突撃すんぞ!!!」
「はい!」
天はとりあえず大きな返事をすることにした。こういう場所での上下関係は理解しているつもりだったからである。しかし、
天は自分の銃に急いで弾丸を装填し、木の影から飛び出て走り出した。
目視できる範囲での敵は五人、どうやら槓子が把握しているよりも敵は少ないらしかった。
「撃て!天!」
天は敵に照準を合わせ肩に一発の弾丸を打ち込んだ。あたりは暗かったが持ち前の視力の良さが功を奏したのだった。
槓子は天が発砲したのを確認すると同時に三発の弾丸を放った。銃を持った黒服の男たちは次々と倒れていく、どうやら、能力を使わずとも射撃の腕は一流らしい。
残りひとり、たじろく黒服は銃を天に向けその凶弾を打ち込もうとした。
間合いは数メートル、3メートルほどだ。
天はとっさに黒服にとびかかろうとするが届きそうにもなかった。黒服は目の前の少年に引き金を引こうとした。
この一撃で天を殺すことができればランズの崩壊は免れると信じていたからだ。
だが、ただ一つ思い残すことがあるとすれば……
槓子の将来への不安だった。
「天!よけろ!!!」
天は思わず首を横に曲げた。それと同時に一発の弾丸は天の首元すれすれを通過した。少しかすったがなんてことはない。
黒服の眉間には黒い血だまりができ、それはこの戦争の終わりを意味していた。
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