第2話 登竜門②

「ここどこだ……」

じめっとした雰囲気の場所、黒い場所だと天は思った。


 腕を動かしてみるとじゃららと金属音がどうや部屋の中に響く。どうやら腕を金属具で拘束されているようだ。前時代的アンティークな鎖だ。


 天の口は乾燥していて、水が欲しい気分であることは言うまでもない。当たり前のことだが水なんてもらえるわけがないと天は思いなおした。すぐに気づいたことだが、銃弾に貫かれた頬に痛みはなく傷もふさがっているようだった。


 ガチャ……


 ドアノブをひねりその男は入ってきた。志琉乃しるの 清十郎せいじゅうろう……七福神の一人。


 カントー一帯を支配するランズの首領、【大黒天】の清十郎。


「自己紹介をしようか?」


 天はその暴虐な首領の顔をにらんだ。


「自己紹介は不要のようだね。そう、僕は大黒天の清十郎。この組織【ランズ】のトップだ」


 あえて、違法ではない組織であることを示したいらしい。


 たしかに実際は公の組織だ。だが、公の機関が危険か危険じゃないかなんてこの場合関係がない。いうまでもなく危険だ。


 この男をもう一度にらみつけた。


「なぜ僕を連れてきた」


 天はそいつに問いかけた。ほかに聞くことはなかった。天は自分が死んでいないことを幸運に思うと同時に自分が殺されるに足る理由がないことは分かっていた。


そして今は、さっきのようにすぐにぶっ放してくるやつはいない。


「そういわないでくれよ、養老ようろう そらくん」


その男は黒色のコートの中から一枚の紙を取り出した。


「養老 天 17歳、家族は現在なし。縁を切った家族は四人、運送業に従事する厳しい父、子供を二人育てるため飴屋で働く優しい母、顔は君に似ていて反抗期に入り冷たくなった妹、そして早くに夫を亡くし君にその夫の面影を見ている祖母。そして、そんな家族に必要のないゴミと言われた無職の君。君はどうせ、まっとうな人生は生きられないんだ。いうならば、いなくなっても困らないニンゲンってところだね」


 天は昔、自分に言われた言葉を思い出した。


 天を苦しめた数々の思い出。


『お前なんて、人を傷つけることしかできないゴミ』


 違う


『お前は卑怯者だ。他人に頼るだけで自分では何も解決しようとしない』


 違う


『他人を傷つけるようなことをするな。賢いきみなら分かるだろ?』


 違う




「黙れ!!!!!」


「そう怒るなよ、きみの傷も治っているし、腹も別に減ってないだろ?」


たしかに天の頬を貫いた傷はなくなっている。だがどのようにしてあの傷を治したのだろうか。


真言マントラ……」


男は呟いた。真言—―マントラと……


「マントラ?なんだそれ?」


「真言は君にも存在する力だ。大半の人間はその存在すら気づかず、気づいても扱うことは難しいんだよ。それに扱えてもちょっとした超能力程度のものとなる」


天はなんだか漫画のような話だと思ったが、この状況でふざけているとは思えなかった。


「そいつが治したのか?」


 首領は首を横に振った。


「たしかにうちにも回復系の真言を持つ女医はいるが、そいつが治したものじゃない」


「じゃあ、だれが治したんだ?」


 思わず天の口から考えていたことがこぼれてしまった。別に返事を期待しているわけではないがただただぎもんだったのだ。


 清十郎は指をさす。まっすぐと、天を指さしていた。


「君のマントラはここらへんで登竜門と呼ばれているものだ」


 その登竜門という言葉に天が少し頭をかしげたことは言うまでもない。


「信じないなら今はそれでいい、それ自体は問題ない、俺もそうだった……」


 清十郎の目は少し昔を懐かしんでいるようだった。


 このにそんな時期があったのか甚だ疑問だがそんなことを今考えても意味がない。考えることはほかにもあるのだ。

 僕は開いた口がいまだにふさがらなかった。こんなふざけた話があるだろうか、大の大人がこんな漫画のような話をしているのだ。

「どうにも信じられないみたいだね。じゃあ、僕が見せてあげるよ、信清のエリーゼ!」

青光りとともに男の手からは一本の刀が出現した。

「これが僕の能力 エリーゼだ。だが、本当の力はこんなもんじゃない。僕は今、小槌を探しているんだよ。僕の小槌をね。」

「それを探せってことか?」

「それは今はいいよ」

 じゃあ、こいつは僕になにを要求しようとしてるんだ?

「今から僕と君は契約に移ろうとしてる。いいね?」

「いやだといったら?」

 天は簡単にうなずくわけがなかった。こんな奴と契約なんてどんなことを要求されるか分かったものではないからだ

「いわないさ、きみはもう社会に必要とされていないニンゲンだ。君のような人間は今ここで殺してもいいんだよ?」

 そういうと、先ほど出した刀を僕の首元にあてた。

 最初から選択肢がないようだ。

「ああいいぜ、でなにをしたらいいんだ?」

「君は必要とされていない人間だ。けど僕が君を使ってやる。君には僕の右腕になってほしいんだ!!!」

「は?」

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