第7話 ミューオン触媒核融合
たかが、電気のために、と坂本龍一はいった。
たかが、電気自動車のために、とわたしは言いたい。
まあ、いいだろう。そこまで、電気ほしいか。火をたくのじゃだめなのか。石炭なんぞ堀りつくすまで探しまくれば1000年分はあるという(現時点で分かっているだけでは100年分)。だったら、原発も核融合もいらないわけで、単純に火力を増やせばいいだけのハナシ、人間の手に負えない長寿命放射性核種なんぞとはおさらばできる。蒸気機関でもe-fuelでも作りたいだけ作って使えばいいだけのハナシだ。環境派とやらが妙な活動しなければ。
まあ、ここまで話をすすめてきてしまったわけだ。ここで、やめるわけにもいかないので、さらに進歩した核融合のハナシ。
ところで、宇宙を構成する素粒子には三世代あることが判明している。いくつかの理論と実験によってこの事実は確実で、日本人の小林・増岡理論によって説明されている。すでにノーベル賞を受賞してからずいぶんと経った。この宇宙が完璧に対称につくられていない、ということもこれら様々な現象から分かった。
例えば、電子にはミューオン、タウ粒子という兄弟で全三世代の粒子が存在し、このうち、電子は極めて安定でほぼほかの粒子に変化したりはしない。兄弟のミューオンは電子の200倍重く、2.2マイクロ秒の寿命を持っている。タウ粒子は非常に不安定でほぼこの世界に現れない。
2.2マイクロ秒といえば短いように思えて、絶妙に長く、いろいろな反応を宇宙から降ってくるミューオンが引き起こしている。上野にある科学博物館に行けば、その様子が目に見えるように展示されている。ほかにも例えば、水素分子にミューオンが補足されたとする。負ミューオンは質量以外、ほとんど電子と同じ性質を持っているため、水素分子の周囲を回りだす。
ただし、200倍の重さゆえに、水素原子核の距離は普通の水素分子の200分の一にまで縮小する。この距離はもう、ほとんど水素同士が隣接しているような状態である。水素原子核はプラスの電荷をもっているから反発するのであるが、「核力」という原子核を結び付けている強力な引力が働きだすほどの距離である。
すると、ある確率で水素原子核同士は結合して、ヘリウム原子核になってしまうのである。これは、まさに核融合である。この反応は我々の身近な空気の中でも起きている反応で、水素分子ばかりを集めてミューオンを照射するだけで、核融合が達成されてしまうわけである。核融合反応は瞬時に起きるため、ミューオンは次の水素分子のところへ飛んで行って次の核融合を起こす。
しかし、そうは問屋(だか物理の神様だかが)ゆるさなくて、ミューオンは電荷が-1のため+2のヘリウム原子核に補足される確率がたかく、150回以上の核反応は抑制されてしまうのである。だから、有効にエネルギーを取り出すのは不可能だとされていた。エネルギー生産には最低300回の核反応が必要でからである。
ところが、最近になって、わざわざ水素にとらえられなくても核反応を引き起こす可能性が見いだされ再度着目されている。要するに、水素のあるところにミューオンを照射すれば、核融合が起きるというわけだ。
問題はミューオンをどうやって作るか、というところにあるが、この設備が実は日本にも存在していて、Bファクトリーと呼ばれる「ミューオンのもと」となる素粒子を作り出す装置である。
Bファクトリーには莫大な電気が必要なわけではあるが、ブレークスルーを期待する学者もいてちょっとした話題になっている。まだ、手を付けている人も少なく、資本投下もほとんどされていないので、イーロン・マスクみたいに山っ気のある人間が投資をはじめたら、できてしまうかもしれない。
ミューオン触媒核融合を手にしたら、人類にはもはやエネルギー問題はないに等しくなってしまう。火力も原発もいらず、環境派の大好きな電気自動車も走らせ放題である(まあ、電池の問題があるが)。電気自動車つくらなくたって、電気で水を分解すればいくらでも水素を再生産できるので、e-fuelも作り放題である。
まあ、そんなことするくらいなら、わたしゃ火力で十分だし、人間が放出するわずかな二酸化炭素で地球が温暖化するとかいう怪しい仮説も信じてないので、ハイブリッド車に乗り続けるけどね。わるいが、ごめんよ。
と、とりあえず、収束がみえたところで、おしまい。まあ、欧州人というのがやたらと欲が深い人種だということが、わたくしにもわかってきた昨今であるので、こんな文章を書いてみた。「環境派」なんてのは金儲けたいだけなんだよって。
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