第3話 EV先進国は悩ましい

 電気自動車が普及している国は、現在限られている。


 理由は明確にあるのだが、ノルウェーと中国である。どちらも異なる理由である。ノルウェーは水力資源に恵まれており、ほぼ電力を水力で賄うことができる。豊富な電力があるから、北海油田で産出されるガス・石油は輸出にまわし、電気をクルマに使おうという発想だ。


 では、中国は、というとまた違って、これは政治的な理由と技術的な理由である。政治的というのは詳述するのもはばかられるが、そういう体制の国だからトップ次第で政策が決まってしまう。技術的にはEVというのは、内燃機関に比べて参入障壁がとても低い。早い話が電池とモーターをつないでしまえば、とりあえず走る。もちろん、インバータとか使わないと効率的にはならないが、単純なのである。


 で、ノルウェー・中国とも困っているのが急速充電ポイントの確保である。なにしろ、充電には最低でもなん十分という時間がかかる。だから、都市部には集中的に充電ポイントが配置されてるわけだが、それでも足りない。朝から大渋滞だ。じゃあ、地方には作らなくていいかというと、そんなことはない。現在のEVは航続距離が短く、地方にドライブにでも行こうものなら、充電しなきゃならなくなる。


 だから、地方にも充電ポイントがたくさんないと実用的に使えないわけである。こんな投資、果たして元が取れるのであろうか。ガソリンスタンドより数が多く、かつ長時間停車できる場所を全国に作らなければならないわけだ。すでに中国では地方にある充電ポイントは稼働していない例が出始めている。最初から元が取れないのがわかってるのに作ってしまった例や、たまに来る客のために、高価な設備をメンテするなんて経済的でないからだ。


 おまけに現在の充電器は故障率が高く、たとえそこに充電ポイントがあったからといって、張り紙で「この充電器は故障中です」とか書いてあるわけだ。故障率の高さは今後のパワー半導体の進歩で改善する見込みはあるが、だからといって今はそうじゃない、なので困るわけだ。おまけに、充電器の平均寿命は数年以下である。だから、せっかく充電ポイントを作っても地方では野ざらしのまま廃止になってしまうこともある。


 さらに困ったことに、ノルウェーや中国の一部は非常に寒冷である。だから、ヒーターを使うわけだが、当然ながらエンジンの排熱なんて使えない。インバーターの排熱なんぞたかが知れてるからである。なので、電池をつかう。当然、航続距離は激減する。


 わるいことに、バッテリーは低温になると電池の化学反応が遅くなるから、性能が悪くなったり、早く放電状態になったりするわけだ。これはもう対策しようがない。電池の根本的性能はそんなに早く進歩しないから、いつまでたってもそんな状態だ。


 正直言って、EVというのはシティコミューター的な単距離のお買い物車に使うのならいいが、欧州のような長距離・高速でのドライブに向いてるとは言えない。物流でも単距離宅配などの使われ方をしてる。だから、むしろ日本でなら「ちょっとそこまでお買い物」的な使い方がされるであろうから、向いてはいる。だが大量に普及して、昼にちょこまか充電とかそういう使い方をされると昼の充電が増えてたいへんなことになる。


 トヨタの会長、豊田章夫はEV普及には原発が十基単位で必要だと言っているが、たしかにそうなのである。奥さん方が昼間から大電力を充電に使ったりしたら、工場の産業用電力なんてたまらないわけだ。


 あとはもうあちこちのメディアで紹介されてるから、ご存じだろうけど、ニッケルやリチウムが大量に必要になるが、資源は局在している。中国はリチウムがたくさんとれるので、その点ではいいのだが、問題は廃棄である。


 リチウムイオン電池の特性として、満充電を繰り返していると寿命が極端に短くなる。だからといって、満充電しなければ航続距離が伸びない。そんなわけで、EVの廃棄処理はどうしてるかというと、中国の場合には野ざらしである。いいことじゃああるまい。だいたい、日本製の電池は発火対策のために「セパレーター」に比較的良い膜を使ってるが、他国性はそうではない。だから、クギを刺すとすぐに発火したりするわけだ。


 なんだかんだといって、リチウムイオン電池をソニーが発明してから、それ以降大きな進歩は電池の分野では起きなかった。肝心のソニーが電池開発から脱落する始末で、それは現在も続いてるわけだ。


 なにやかにやあるが、要は電力供給と充電である。誰もがこぞってEVを支持できたのは、2011年3月11日までなわけである。


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