第14話 着信アリ

—— 小学校にて


「そう言えばなんですけど、花子さんって電話とか持ってないですよね?ボクからの電話ってどうやって受けてるんですか?」


 そんな疑問をぶつけてみた。


「あぁ、それは…何て言えば良いかな。とりあえず、急にどこからか変わった音が聞こえてね。それに対して"出よう”とか、"受けよう"って思えば繋がるんだよ。よくは分からないけど、そうすれば良い…って事だけは何となく分かるんだ」


 大先輩にもその仕組みはよく分からないようだ。

 逆に掛けてみようと試みたこともあるらしいが、そちらは上手くいかなかったらしい。


「へぇー…ボクにもそのうち掛かってきたりしますかね?」

「メリーちゃんは電話持ってるんだし、そっちに掛かって来るんじゃない?あーあ、私も自由に電話出来たら、もう少し楽だったんだけどねぇ」

「あぁ、これって発信専用なんですよね。掛けた相手にも、番号表示とかされないみたいで...」

「ふーん…でもまぁ、相手次第じゃない?人間相手はそうでも ——」



———

————————



 それは夕飯の食器を片づけ、温かいココアを飲みながら一息入れた時だった。


(Prrrrr Prrrrr...)


 不意に、発信専用鳴らないはずのスマホが騒ぎ出したのだ。

 突然のことに驚きながら、それでも状況を理解しようとする。


 1つ —— ボクに掛かってきた電話は、花子さんとは違いこのスマホが受信するようだ。

 2つ —— このスマホが鳴るということは、相手は…と言うことだろう。

 3つ —— 花子さんは、自分から電話を掛けることは出来なかった。なら、この相手は...


 意を決し、電話を受ける。

 画面には通話開始などは表示されていなかったが、"出よう"と思えば繋がるようだ。


「はい、もしもし ——」


 その言葉に返って来たのは ——


『いま、公園にいるよ』


 …そう告げて電話は切れた。

 

「これは…多分そうだよね?」


 予想通りなら、またすぐに掛かってくるはず…やっぱり ——


『いま、マンションの前に ――「すみません、さとるくん…で合ってますか?」 —— へ?』


 なんとも気の抜けた声が聞こえてきた。大丈夫だとは思うが、切られる前に話を続けた方が良いだろう。そう判断し、言葉を続ける。


「初めまして、ボクはメリーさんと言います。さとるくんのことは花子さんから聞いたことがったので、そうじゃないかなって。その様子だと合ってたみたいですね、良かったです」


 以前、花子さんが教えてくれたのだ。メリーさんボクに似た都市伝説が他にも居るのだと。それが"さとるくん"だった。


 電話が掛かってきて、その度に段々と近付いてくる。そして、最後には後ろに現れ、振り向けば…と言うところまではほぼ同じだ。ただ、この時に振り向かなければ、さとるくんが質問に何でも答えてくれるらしい。—— もしかして、メリーさんよりも優しいのでは…?


『—— メリーさん…あぁ、そうか...。それに花子姐さんか。姐さんはまだ頑張ってるの?』

「はい、最近はボクと一緒に電話を掛けて驚かせたりしてるんですよ?さとるくんのことも懐かしそうに教えてくれました。あ、さとるさんって呼んだ方が良いですかね?」

『好きに呼んでよ、こっちも好きに呼ぶからさ。それにしても、メリーさんと花子さんが一緒に電話とか、掛かってくる方としては堪ったもんじゃないよね』


 そう言われると確かにそうだ。驚く様を想像してつい笑ってしまったが、こちらとしては驚かせるが仕事なので許して欲しい。


「ふふっ、そうですね。それで、花子さんから伝言です。『まだ元気にやってるなら、たまには電話掛けてこい』…って。もし話すことがあればそう伝えてくれって」

『まったく、一度話したっきりだってのにほんとお節介なんだから。ま、気が向いたらね』

「わかりました、そう伝えておきます」


 その声音に喜色が含まれているのを感じたが、それは言わぬが花だろう。


『—— それにしても、まさかメリーさんがマンション暮らし…それも人と暮らしてるとは思わなかったな。まぁいいや、そろそろ切るよ。今日の分も驚かせに行かないとダメだしね』

「またいつか、ゆっくりお話聞かせてくださいね」

『そのうちにね。じゃ、またね、メリーさん』

「さとるさんも、お元気で」


—— そんな、雪降る夜の一幕。

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