後日談 いつか、もう一度

※本日2話(後日談+人物設定)更新(1/2)

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◇Side:トイレの花子さん


(—— 暇…ねぇ...)


 季節が秋から冬へと移り変わる頃。

 小学校の片隅で、少女が独りごちる。


「メリーちゃんが来なくなって、もう4ヶ月くらいかしら」


 暑くなり始めた頃、急に彼女からの電話が来なくなった。

 それまでは週に一度程度のペースで話したり、たまに遊びに来たり。

 そんな緩い交流を続けていたのだが…。


 出会ってから半年と少しという短い時間だったが、それまで長い時間を独りで過ごしていたのだ。その時間はとても楽しく、大切だった。友達だと言ってくれたし、友達だと思っていた。


「あの子のことだし、何か事情があるとは思うけど...」


 そう言えば、以前知り合ったメリーさんも気付けば居なくなっていたな…なんて、ふと思い出した。あの時は然程の関わりもなかったし、気にも留めなかったけど...。


「もしかして、もう成仏しちゃったのかしらね」


 以前聞いた話だと、メリーさんになって一年かそこらのはずだ。

 成仏したとすれば随分早いと思うが ――


―― 思考を遮るように、段々と喧騒が近付いてくる。


「久しぶりに、子ども達が来たみたいね」


 考え事を切り上げ、彼女は仕事に取り掛かった。


———

————————


 その夜、いつの間にか真っ白な空間に立っていた。

 何事かと思ったが、状況を確認するよりも先に、目の前の男が話しかけてくる。


「やぁ、随分と長い間頑張ってくれたみたいだね」

「…あなたは?」

「神の代理人さ。君に任せた仕事が完了したようなのでね、迎えに来たんだ」

「―― 仕事?それに、任された…って。あなたに会った記憶はないのだけど?」

「そうだろうね。まぁそれは良いんだ、仕事ってのは"花子さん"のことさ」


 その言葉に、遠い記憶を思い起こす。

 もうずっと忘れていたが…花子さんとして目覚めたとき、確かに仕事云々といった記憶が頭にあった。いつしかそれも忘れ…最近までは惰性のように過ごしていたが...。


「あぁ…それで、仕事が終わったから迎えに...。つまり、お役御免ってことかしら?」

「言い方は悪いが、その認識でおおむね問題ない。そして、仕事を終えた君は輪廻へと還ることになる」


 そして、男は都市伝説について簡単に説明をしたが、別にそんなことはどうでも良かった。

 長い時間の中で、『なんでこんなことをしているんだろう』と考えたこともあったが、その理由が分かっただけだ。今更分かったところで何が変わるわけでも無かったが ——


「ねぇ、少し前…多分この数ヵ月だと思うけど、メリーちゃ…メリーさんがここに来たりしなかったかしら?」


—— それでも、聞きたいことが無いわけではなかった。


「うん?あぁ、彼女と知り合いだったのか。君たちの時間で4ヶ月程前だったかな、確かにここに来た。一年程度で仕事を終えてね、あれには私も驚いたからよく覚えているよ」


 あぁ…彼女はやり遂げて、そして輪廻に還っていたのか。


「まったく、せっかちな子なんだから…でも、嫌われたわけじゃなくて安心したわ」


 そうか…と言う気持ちと、そして少しばかりの安堵。


「それで、輪廻に戻ることになるが、最後に何かあるかい?君には特に苦労を掛けたようだ。何か望みがあれば、多少の無理は聞き入れよう」

「いえ…別に望みはないし、何か言い残すような相手も居ないわ。パパッとやっちゃって」


 一瞬、こまっしゃくれた少年を思い浮かべたが…あの子は私なんかより余程しっかりしている。それに、メリーちゃんも元気にしているようだと言っていた。それで十分だ。


「そうか。わかった、それでは目を閉じて ——」



 全身が温かい物に包まれるような感覚。

 身体が、意識が、記憶がほどけていく...。

 薄れゆく意識の中、彼女が最期に願ったことは ——



—— もしもまた、もう一度出逢えたのなら...

—— その時はまた、お友達になりましょうね。メリーちゃん。



———

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Side:さとるくん


「姐さん、いるかー?」


 その声は虚空に溶け、そして雪のように消えていった。


 いつか話した時に聞いた場所はここで合っているはずだ。

 だが、そこに居るはずの…目的の人物は何処にも見当たらなかった。


「—— あぁ、姐さんもやっと役目を終えたのか」


 空っぽの空間を前に、彼は全てを悟った。

 実のところ、彼は都市伝説自分たちの役割を正確に理解していたのだ。



 都市伝説さとるくんとして活動し始めて2年目の春。適当に掛けた電話が当時のメリーさんに繋がり、そして、それなりに仲良くなった。


 しかし3年目の夏 —— 彼女は終わりの見えない状況に疲れていたのだろう、次第に塞ぎ込むことが増えていく。その様子に彼は、少しでも元気付けようと思い —— それは電話を掛けて背後に現れ、振り向いたところで頬をつつくと言うような、そんな不器用なものだったが ——


 背後に現れた彼に、彼女は振り向くことなく ——



—— 私達、いつまでこうしてれば良いんだろうね。



 こぼすようにただ呟いた。いや、行き場のない想いがあふれ出たのだろう。

 その呟きに、都市伝説としての何でも質問に答える能力が発揮され、答えが降りてきた。そして彼は、その内容を彼女に伝える ——。


 それからの彼女はいつも忙しそうで、話す時間もどんどん減っていった。だが、彼女が元気になったのならそれで良いか…そう思い、そして気付けば、彼女の姿はどこにもなくなっていた。


 それを彼は、今に至るまで誰に話すこともなく、ずっと心に秘めたままで ——。



「—— 多分、俺もそろそろだと思うんだけど...」


 思い出の少女を思い出しながらそう呟く。

 新しく知り合ったメリーさんも、気付けば繋がらなくなっていた。

 そして、姐さんと慕った相手も、ようやく役目を終えたらしい。


「こんなことなら、もう少し早く来ればよかったなぁ...」


"役目を終えた都市伝説は、輪廻へと還り、そして新しい人生を歩むことになる"


「声聞かせろって言われたけど...。まぁ、運が良けりゃ来世でまた会うこともあるだろ、とりあえず今は ——



—— 姐さん…長い間、お疲れさまでした。



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※12:20に人物設定(2/2)更新。

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