第12話 かけてはいけない

 数多く存在する都市伝説の一つに、"掛けてはいけない電話番号"が存在する。


 それもまた数多く存在しており、繋がる先はこっくりさんだったり、貞子だったり、はたまたメリーさんだったり。他にも掛けたら死ぬだとか、中には宇宙との交信…なんて言われているものも存在している。


 もっとも、我らが可愛いメリーちゃんの電話スマホは発信専用なので、繋がることなどないはずなのだが...。そもそも他の都市伝説は電話に類する物など持っているのだろうか。まぁ、不思議パワーならそう言うこともあるのかもしれない。もし確かめると言うのなら自己責任でお願いしたい。


———

————————


 今は色々と済ませて、もうすぐ21時を迎えようとしている、そんな時間。


 最近は配信することも増えてきたが、メリーさんと言えばやはり電話を掛けなければ。…などと、別にそんな拘りがあるわけではないが、どこに掛けようかと悩んでいるところである。

 スマホの地図をスクロールし、ふと目に留まった場所 ——


「ここは…そう言えば行ったことなかったよね。それじゃ、今日はここにしよっかな」


 そうして、彼女はすっかり慣れた様子で通話開始を押した。


(Prrrrr Prrrrr...)


『はーい、何して遊ぶ?』

「ボク、メリーさんです。いま、あなたの家の前に居ます」




(—— あれ?台詞言ったのに移動しない…?)


「『—— あの...』」


 お互いの戸惑う声が重なった。


「あの、お先にどうぞ...」

『あ、うん...。えっと…あなた、メリーさんなの?』

「—— そうです。そうなんですけど...」

『ふふっ...。なら、台詞を言ったのに場所が変わらなくて驚いたんじゃない?ごめんね、私に家って呼べるような場所はないの』

「あっ…すみません」


 失礼なことをしてしまった。というか、いつもの癖で「家の前に居ます」って言ったけど、電話を掛けた場所は小学校だ。家の前に行ったところでどうしようもないじゃないか。


(てっきり、宿直の先生辺りに繋がると思ったのに...)


『気にしなくて大丈夫よ。それより、あなたも都市伝説なんでしょ?それなら仲良くしてくれると嬉しいわ』


—— 何気ない会話に紛れ込んだ違和感。


「あなた…ですか?」

『そう、場所は分かるんでしょ?なら、小学校にいる都市伝説って言えば誰だか分からない?』

「—— もしかして、花子さん…だったりします?」

『ピンポーン、大正解。私が"トイレの花子さん"です。よろしくね、メリーさん♡』


 まさか、トイレの花子さんとこうして電話で話す機会がくるなんて...。

 しかし ——


「何か、イメージが...」

『あら?仕方ないじゃない。これでも仕事中は、ちゃんと子どもっぽく振る舞ってるのよ?』


 そして、やっぱり花子さんもお仕事だった...。


『もう随分長くここに居るからね。見た目は兎も角、気持ち的には立派なお姉さんよ』

「そうなんですか?—— あ!なら、もしかしてボク以外のメリーさんと話したこととか!」

『何度かあるわよー?だから、あなたのこともすぐ分かったわ』

「それでボクの能力も知ってたんですね、おかしいと思いました...」

『驚かせちゃった?それで、どう?お友達になってくれるかしら』

「それは…こちらこそ、仲良くしてくれると嬉しいです!」


 そして二人は、お互いのことや、都市伝説になってからのことを話し始めた。


『いやぁ、私って基本小学校ここから動けないからね。たまに来る子どもを驚かせるだけだから、どうしてもペースも上がらなくて…自分でも、もう何年ここに居るか…なんて忘れちゃった』

「そんなにですか!?ボク、メリーさんになってまだ半年も経ってないんですけど...」


—— ボクも、この先何十年とメリーさんを続けるのだろうか。


『まだピカピカの一年生だったのね。でも、メリーさんなら花子さんより効率は良いんじゃないかしら?』

「そうかもしれませんけど…あ、最近は配信も始めたんです!」

『配信?あぁ、最近子どもたちがよく言ってるやつかしら。どの配信者がどうのこうのって』

「ですね。ボクの場合、イラストに声を当てるって感じでやってます」


—— このままずっと、絵茉えまさんと一緒に居ても良いのだろうか...。


『外を自由に歩けるのは羨ましいわね。ここって、することも無くて暇なのよねぇ』

「あー…それなら、今度会いに行っても良いですか?」

『ほんと!?メリーちゃんならいつでも歓迎するわ!』


———

————————


 こうして、メリーさんとトイレの花子さんは友達になった。


 いつしか、トイレの花子さんから電話が掛かってくる…という噂が流れるようになったが、その真偽は定かではない。


 もしかしたら今夜、あなたのところに ——

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