【終章】ボク、メリーさん(全3話)
ボクと神様の事情
「ここは…?」
配信を終え、
どこまでも白く、遠く、そして何もない。そんな場所で辺りを見回していると ——
「やぁ、急に呼び出してすまないね」
—— 後ろから声を掛けられた。
その声に振り返ると、全身を白で包んだ一人の男性が立っていた。声も、姿も、これと言って特徴のない、一息吐けば忘れてしまいそうな、そんな男だった。
「本当はもっと先だと思ってたんだが、随分と早かったね。まぁ、頑張ってくれる分には、こっちも助かるから全然構わないんだけど」
何を言っているのだろう。そもそもこの人は誰で、ここは何処なのか。暫し呆然としてしまったが、その気持ちを素直にぶつけることにした。
「すみません、ボクはメリーさんと言います。ここは何処で、あなたは誰なんでしょうか?夢にしてはやけにハッキリしてますし」
「あぁ、すまない。まだ名乗ってもいなかったね。私は…神の代理、と言ったところだね。魂の管理を任されている。ここは私の仕事場さ。君の身体は寝てるから、夢と言うのも間違いではないんだがね」
答えは返って来たが、何の解決にもならなかった。これが夢だと言うなら、覚めるのを待っていれば良いのだろうか。なんとなく、そうじゃない気がする...。
「神様って、ほんとに居るんですね」
「そうかい?都市伝説が居るんだ、神様が居たって良いじゃないか」
「それは…そうですね。—— あれ?ボクが都市伝説だって分かるんですか?」
メリーさんだとは名乗ったが、都市伝説だとは言ってなかったと思うのだが...。
「ん?あぁ、魂の管理をしていると言っただろう。それくらいは分かるさ。そもそも、君をメリーさんにしたのは私だしね」
—— この人が、ボクをメリーさんに…?
「不思議そうな顔をしているね。そもそも君は、都市伝説はどういうものだと思う?」
「えっと、メリーさんは人を驚かせるのが仕事だって...」
「そうだね。正確には、人を驚かせることで魂を刺激する。そうやって刺激することで魂を活発にさせることが目的なんだ。メリーさんに限らずね」
「魂を活発に、ですか?」
彼が言うには、刺激のない生活を送った魂は徐々に弱っていく。当然、魂が弱るとその心身も衰弱していき死んでしまう。それだけでなく、その魂は死後も弱ったままなのだそうだ。弱った魂では輪廻転生にも悪い影響が出てしまう。だからそれを防ぐ為、適性のありそうな魂を都市伝説として派遣している…らしい。
「つまり、魂の摩耗を防ぐ為のお手伝いさんって事さ」
「それは分かりましたけど、どうしてボクが選ばれたんでしょうか。ボクなんて大した事も出来ませんし、適正って言われても正直なんのことか...」
元々ボクは、ただの女子高生だ。神様の手伝いなんて言われても困ってしまう。
「ははっ、一年程度でこの仕事をやり遂げておいて適性がないなんて面白いことを言うね」
「—— やり遂げた…?」
「あぁ、君は都市伝説としての仕事をやり終えた。それも異例の早さで…だ。ついでに言うなら、突然都市伝説だなんてよく分からない状況に放り込まれたり、神の代理を名乗る男を前にしても動じないその心。それが何よりの適正だよ —— 君はそのことを誇って良い」
そんなこと言われても、"驚かせるのが仕事"だなんて、最近はすっかり忘れていた。ただ、今の生活が楽しくて…絵茉さんや配信やSNSを通して関わり合うリスナーさん。ティスティスさんや、近所のお婆さん。みんなと、ずっとこのまま過ごせたらいいなって…そう思っていただけでなのだから。
「—— そんな訳で、君の仕事はこれにておしまい。無事に贖罪も済んで、君の魂は輪廻へと還ることになる」
(今この人は何て言った…?)
ブ ジ ニ シ ョ ク ザ イ モ ス ン デ
——— ショクザイ
———————— 贖罪?
「ちょっと待ってください、贖罪って、罪って一体どういう...」
当然告げられた贖罪と言う言葉。ボクが罪人?ただの女子高生だったはずだ。校則だって守っていたし、ルールを破ったりなんて ——
「—— 親不孝」
「————っ」
「子が親より先に逝ったんだ。理由はどうあれ、それは罪だ」
その顔は申し訳なさそうで、哀れむようで、悲しそうで…そんな表情で告げられた言葉は、心の奥深くに突き刺さった。
「これが自殺だったりすると、賽の河原に送ったりするんだけどね。君みたいに綺麗な魂には手伝いをしてもらって、それが終わると輪廻に還す。それが私の仕事なんだ」
脳内が
「輪廻に戻ると、ボクはどうなるんですか…?」
「新しい人生を歩むんだ、当然、今の君は消えることになる。でも、関わった人の記憶まで無くなるわけじゃない。君が存在した、その事実は消えたりしない」
「いつ…?」
「出来れば、この後すぐにでも」
「このまま過ごすって言うのは...」
「残念ながら。お手伝いの枠にも限りがあってね、私は他の魂も救わねばならないんだ。君一人を特別扱いすることは出来ない」
あぁ、それじゃあ無理だ...。それに、他の人を不幸にして自分だけ…なんて生き方は、ボクには出来そうにない。
「…わかりました。でも、せめて最後に言葉だけでも...」
「あぁ、それくらいは大丈夫だ。元より、手伝いを任せたのも、急に呼び出したのもコチラなんだ。むしろそれくらいしか出来なくて申し訳ない」
きっと、この人は良い人なんだろう。ボクのことなんて気にせずに進める事も出来るだろうに、こうして話を聞いてくれるのだから。
「いえ…こうしてメリーさんとして過ごせて、本当に楽しかったんです。一年って短い間でしたけど、凄く幸せだったんです。だから、ボクをメリーさんにしてくれて、ありがとうございました」
みんなと別れるのは寂しいけれど、この気持ちは嘘じゃない。
いつの間にか涙が頬を流れていたけれど、それはこの一年間、本当に幸せだったからだ。
だから、最後にこの気持ちを伝えなきゃ。
大切な —— 大好きな
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます