第10話 ぽちっとな!
—— アカウント名は見なかったことにしよう。
…何故って、それ以上に気になるものが目に入ってきたから...。
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もちぺったん◇イラストレーター
今夜は久々にお絵かき配信やりまーす!
特別ゲストもいるんで、みんな見に来ないと後悔するっすよ!
20時 or 21時予定!URL:~~~~~
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フォローした覚えはないので、
『もちぺったん』
絵茉さんの仕事用の名前である。以前に読んだライトノベルの表紙にもこの名前が記載されていたので間違いない。聞けば、ティスティスさんの配信にもお金を投げてコメントしていたとかなんとか…っていうか...
「そんなに配信したかったんですか...」
———
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…はい、現在20時50分です。
「んー…もしかしてメリーちゃん、緊張してます?」
「当たり前じゃないですか!そもそも話が急過ぎますよ!?やるにしてもまさかその日のうちにやるなんて思わないじゃないですか!!」
「あはー、元気いっぱいっすねぇ。配信もそんな感じで行けば大丈夫っすよ」
あ、ダメだこれ。何言っても通じないやつだ。
「あーそうだ、配信じゃ私のことは『おねーちゃん』って呼んでほしいっす」
「それ、単に絵茉さんがそう呼んでほしいだけなんじゃ...」
「だって、あれ以来呼んでくれないじゃないっすか~。それに、本名は公開してないんで...」
絵茉さんが珍しく言い
「分かりました…おねーちゃん...」
「あぁ~…テンション上がってきた、今なら三徹くらい行ける気がする」
「それはダメですからね?」
元々は随分と不規則な生活リズムをしていたらしいが、ボクと暮らすようになって改善したと言っていた。それは正確に言えば、ボクの面倒を見る為だ。それを思えばこれくらい…恥ずかしいくらいがなんだ。
「よし、もうそろそろ21時っすね。ペケッターで呟いて…っと。もう始めるけど大丈夫です?」
「だいじょばないけどだいじょうぶですぅぅぅ...」
「まぁ最初はマイク切って宣伝表示してるんで、その間にコメント見て少しでも雰囲気に慣れて欲しいっす。それでもダメそうなら無理はしなくて良いんで。無理言ってるのはこっちなんで、気にしなくて平気っすから」
その言葉に、黙ったまま首を振る。もしかして、受験の時と同じくらい緊張してるんじゃないだろうか…流石にないか、別に人生が掛かってる訳でもないし。そう考えると少し楽になった。
「そんじゃ、配信開始…っと」
:キタ―――(゚∀゚)―――― !!
:新刊の表紙めっちゃ良かったです
:こんばんわー、リアタイ久々
「おーおー、ちゃんと来てるっすね。あぁ、うちのリスナー、ティスティスちゃんのとこに比べたら大人しいんで安心して良いっすよ。あの時の配信、見返したんすよね?」
「えっと、はい、一応...。確かに礼儀正しそうなコメントが多い気がします」
「でしょー?リスナーは配信者の鑑って言いますからね、みーんな私に似たんす!」
その表情は、絵茉さんがリスナーを大切にしていることを物語っていた。最近はボクの為に時間を割くことで、配信する時間が取れなかったんじゃないだろうか。もしそうなら申し訳なく、同時に、そんな大切な場所にボクを招待してくれた…そのことに胸が温かくなる。
「—— なら、みんな良い人に違いないですね」
自然に笑みがこぼれた。
もう大丈夫、緊張は何処かに行ってしまった。
:特別ゲストって誰だろ
:誰か匂わせてる人いたっけ?
:正解はこの後すぐっ!!
画面には、今か今かと楽しみにしてくれているコメントが流れている。
ボクのことも、受け入れてもらえると良いな。
「それじゃ、ミュート解除するっすよ。私が振ったら自己紹介してほしいっす」
「はいっ!」
「ふふっ、今度こそ大丈夫そうっすね。それじゃミュート解除を ——
—— ぽちっとな!
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