第06話 幕引き

「—— あのっ!…理由があれば、良いんですよね?」


 急に声を上げたボクに、二人の視線が突き刺さる。


「そりゃそうだが、どうするつもりだ?」

「あちらの警察に通報するって言うのはダメですか?怪しい白いワンボックスカーがいる、中から子どもの泣き声が聞こえた…とか言えば、確認くらいしてくれるんじゃないか…って。そうすれば...」


 説明出来ないなら、説明しなければ良い。

 理由が必要なら、作れば良い。


「あぁ、それもそうっすね。折角場所が分かってるんだから、説明とか考えずに通報すれば...」

「流石にそれだけじゃ…いや、先に誘拐の概要だけでも伝えておけば大丈夫か?それに、乗り込むのがうちである必要もないんだ」


 それに、変わった能力があっても、ボクじゃ助けるなんて出来ないのだから。ボクが一人で乗り込んだところで人質が増えるだけだ。スマホを取り上げられれば、逃げる事も出来なくなる。


あらかじめ事件の概要を伝えた上で、それと一致する通報があればほぼ確実に動かせる。この手の事件じゃ、付近の警察に情報を求めるのも普通のことだ」

「自分たちに何が出来るか…なんて考えすぎたっすね。凄い能力があっても、所詮一般人に出来る事なんてたかが知れてるっす」


—— そこから先、ボクの出番は無かった。


 二人は案を出し合い、そして纏めていく。

 それは、時間にしたら十分足らずのことだったが、それでも...


「いけそう、ですか…?」


 正直、単なる思いつきでしかなかった。もう時間が無いんじゃないかって、そう思ったから、全部無視して男の子を助け出すことだけを考えた。


「あぁ、何とかなるかもしれん。勿論、防犯カメラの解析なんかも進めてはいくがな」

「上手く行けばメリーちゃんのお手柄っすね」


 ボクは、"通報すれば説明しなくても誘拐犯の場所が伝えられる。そしたら乗り込んでくれるんじゃないか"…そう思っただけだ。それ以外の部分は、全部二人が考えてくれた。


「早速、署に戻ってあちらさんに連絡させる。通報も、匿名にしてこっちでやるから安心してほしい。場所に変わりがないかだけもう一度確認させてくれ。間違いが無いよう、住所なんかもこっちで調べておく」


 刑事さんはそう言い残して帰っていった。

 残されたボクに出来ることは、男の子の無事を祈ることだけだった。


―――

————————


 その後、どういう経緯があったのかは分からない。


 ただ、その日のうちに犯人は全員逮捕。男の子は怪我もなく助け出されたと、刑事さんが教えてくれた。


 家族からの相談と、ボクからの目撃情報。それに防犯カメラの映像からも、そちらに向かった可能性が高いと判断された結果らしい。ダメ押しの通報で、迅速に動かすことが出来たのだと。

 お陰で救出は早かったが、それでも男の子がトラウマなど負っていないか心配してしまう。


 今回のことで、自分の無力さを思い知った。この非力で小さな身体だけじゃない。変わった能力を持っていても、出来る事なんて限られているのだと。


 アドレス帳には新しい名前が増えた。剣持さんだ。絵茉さんとの関係など、相談に乗ってくれるらしい。困ったことがあればいつでも頼って良いと、そう言ってくれた。


 いつも周りに迷惑をかけて、そして助けられて、お世話になっている。結局ボクは、今回も誰かを驚かせることなく…あぁ、そういえば剣持さんの前で飛んだ時は驚いてくれたんだっけ。

 それを思い出して、小さく笑みがこぼれる。






(大変だったのにね...)


 そして、そんなことを考えてしまう自分に溜息がこぼれた。

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