第05話 情報共有

「メリーちゃんの思うようにして良いっすよ」


 絵茉えまさんはそう言った。


「この刑事さん、私も昔ちょっとお世話になったことがあるんすよ。それで、信用しても大丈夫かなって。それに、放っておけないんでしょ?」


 ボクの思ってることなんてお見通しだった。ボクの能力で少しでも助けになれるなら、助けになりたい。でもその場合、絵茉さんにも迷惑を掛けてしまう…そう思ってしまって。それなのに…気付けばボクは、静かに頷いていた。


「—— ってことで剣持さん、超能力とか都市伝説って信じます?」

「話の流れがわからんが、それはいま必要なことなのか?」

「勿論、大切なことっす。でもまぁ、信じるかって言うより、信じる気はあるか…って聞いた方が良かったかもしれないっすね」


 刑事さんは怪訝な顔をした。そりゃそうだろう。


「分かってると思うんでぶっちゃけますが、この子…メリーちゃんって言うんですけど、ちょっと特殊な事情があってうちに居ます」

「でしょうな。以前会った時には、子どもなんて居なかった」

「それでですね…この子の不思議な力で、犯人の場所がわかるって言ったらどうします?」


 刑事さんの眉間の皺が深くなる。


「…それを信じろ、と?」

「いきなり言われても無理なのは承知の上っすよ。なんで、メリーちゃん。いつものお願いして良いっすか?」


 大丈夫だろうか…でも絵茉さんが言うんだ、ここは信じるしかない。


「それじゃこれ、私のスマホっす。今からそれに電話掛けるんで出てください。それと、メリーちゃんから目を離さないように。んじゃ、メリーちゃん」

「…わかりました。それじゃ、掛けます ——」


 鳴りだしたスマホを手に、刑事さんはこちらを一瞥してから通話開始 —— そして私に鋭い視線を向ける。


「—— ボク、メリーさん。いま、あなたの後ろに居ます」


 どんな表情だったのかは分からないが、驚いたのは背後からでも分かった。咄嗟に立ち上がり、そしてボクの言ったことを思い出したのだろう。勢いよく振り返り、そして目を見開いた。


「…これは ――」

「メリーさん…って都市伝説、聞いたことくらいあるんじゃないっすか?メリーちゃんも、もう良いっすよ。二人とも座ってください。あとスマホ」

「あ、あぁ...」


 手を差し出しながら、絵茉さんは落ち着く時間を与えることなく畳み掛ける。


「そんなわけで、メリーちゃんは都市伝説なんすよ。一瞬で剣持さんの背後に移動したのも、犯人の場所が分かるのも、そういう能力があるからっす。信じる気になったっすか?」

「いきなり全部ってのは無理だ。正直、理解しろと言われても困る。だが、何かしら不思議な力があるってのは分かった。…先日のあれも、その能力か?」

「先日…?」

「あぁ、気付いたら後部座席にそのお嬢ちゃんが居てな。どこの迷子かと思ったが...」

「なるほど、道理で。話には聞いてたけど、おたくが相手だったんすね」


 お互いに何かを納得したらしい。


「いつからだ…?」

「まだ十日くらいっすね。同じように急に現れて、それから一緒に暮らしてます」

「こう言っちゃなんだが、よく受け入れられたな。目の当たりにしても、まだ実感が湧かん」

「その辺はマンガやアニメのお陰っすかね、オタクの嗜みっす」

「…なるほど。それで、犯人の居場所ってのは今も分かるのか?それと、俺にも分かるのか?」


 視線を向けられ、頷きながらテーブルにスマホ置く。地図アプリは開いたままだ。


「これは?」

「登録した相手の場所を表示する機能、です。誘拐するとこを見て、咄嗟に登録しました」

「—— 丁度、止まったみたいっすね」

「ここは…隣県か。あっち方面は防犯カメラ追うのも苦労しそうだ。そもそも、こんなもんどうやって上に説明しろってんだ...」


 結局そこなのだ。誰彼構わず説明するわけにはいかず、誰もが信じてくれるわけでもない。


「一人で足使って見つけた、って言うしかないんじゃないっすかね?」

「いきなり他県に乗り込むのはな…。現場から追いかけていくなら兎も角、乗り込むなら流石に理由が要る。それと…一応聞くが、さっきのあれで別の人間を飛ばせたりは?」

「すみません、他の人は…。あくまでボクが移動するだけです」

「まさか、こんな女の子を一人で行かせたりしないっすよね?」

「そんなこと出来るわけないだろう...」


 さっきから犯人は一カ所に留まったままだ、アジトに着いたとみて良いんじゃないかと思う。ここから電話が掛かってくるのか、それとも ――。

 どちらにしろ、ここでのんびりしているような時間はないだろう。


「—— あのっ!…理由があれば、良いんですよね?」

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