第03話 がんばれメリーちゃん

◇Case.1


(Pi ——)


 と、路肩に停めた車内に無線の音が鳴り響く。


「—— こちら剣持。どうした、緊急か?」

「—— ボク、メリーさん。いま、あなたの後ろにいるの」


 子どもの悪戯?いや、無線に割り込むようなことが…?そう思っていると、後部座席に人の気配を感じた。振り向くと、目を丸くした小学生くらいの少女と視線がぶつかる。いつの間に乗って来たのか、ドアの音には気付かなかったが...。


「あー…お嬢ちゃん、パパの車と間違えちゃったかな?悪いけど、おじさんは今仕事中なんだ」

「あっ、お仕事の邪魔してごめんなさい...」

「いや大丈夫だ。それで、パパかママは近くにいるのか?」

「いえ、ボク一人です」


 見た目の割にしっかりした受け答えだ。よく子どもに顔を見て泣かれるので、泣き出されなかったのは正直助かった。


「ん、なら家が近いのか?遠いなら送ってやっても良いんだが...あぁ、安心して良い。おじさん、こう見えてお巡りさんなんだ」

「住んでるのは…あそこのマンションです」


 そう言って指差したのは、100m程先にあるマンション。


「なら一人で帰れるか?危ないから、もう知らない車に乗り込むんじゃないぞ」

「大丈夫です。すみません、ご迷惑おかけしました...」


 その様子を見て、まぁ大丈夫だろうと判断。ドアを開けてやり、そのまま見送る。


「最近この辺りで不審な人や車が多いらしいから、気を付けて帰るんだぞ」


 その少女がマンションに着くのを確認し、車は再び走りだした。



◇Case.2


「おぅおぅ、よう来たねぇ。ほれ、遠慮せんと上がって上がって。お菓子もあるけぇ遠慮せんと食べていきぃ」


—— どうしてこうなった...。



 昼食を終えて食器を洗い、一息入れたところだった。

その日は、仕事のイラストを描くと言って絵茉えまさんも朝からパソコンに向かっていた。邪魔する訳にもいかず、かと言って読書の気分でも無かったので電話しごとをすることにしたのだ。


「こないだは失敗しちゃったし、今回は家にあるやつに掛けよう...」


 前回、変わったとこにあると思って電話を掛けたら、警察車両の後部座席に飛ばされたのだ。道端で動いていなかったから公衆電話かと思ったのに...。


 反省を踏まえて今回選んだのは、一軒家らしき場所。


 ようやく慣れてきた「ボク、メリーさん。いま、あなたの家の前にいるの」という台詞に返って来たのは ——


「そうかぇ、マリーちゃんね。よう遊びに来たねぇ、いま開けに行くから待っちょってねぇ」


 そんな言葉だった。

 予想外の言葉にどうして良いか分からず、名前を訂正するのも忘れ、しかし立ち去るのも申し訳なくて...そうして、玄関先で立ち尽くしているところに掛けられたのが冒頭の言葉だ。


 あれよあれよと居間に通され、羊羹を食べるボク。あ、昆布茶美味しい。


 それから暫くお婆さんの息子自慢、孫自慢を聞いたり、途中で孫を名乗る電話が掛かってきたので注意を促したり…そもそも、こうやって上り込んでるボクが言えたものでは無いのでは?

なんて思いながら...。


「そろそろボク帰らないと…お菓子、御馳走様でした。美味しかったです」

「はいはい。こんなお婆の相手してくれてありがとね。そいじゃ、またいつでも遊びにおいで」


 そう言って玄関で見送られたボクは、マンションに向かって歩き出した。



◇Case.3


 お婆さんに見送られ、マンションに向かう帰り道。

 地図アプリを確認すると、もう少し行けばいつかの公園が見えてくるようだ。


「絵茉さんはまだ仕事中かな?」


 こうして歩いているのは、もう少しこの辺りのことを知りたいと思ったのが一つ。もう一つは、絵茉さんの仕事を邪魔をしたくないと思ったから。

 いつもボクの為に時間を割いてくれているのだ、仕事中くらい迷惑を掛けたくない。


 そして公園に着き地図を確認していると、公園から一人の男の子が出てくる。あの子も家に帰るところなのだろうか。そう思って眺めていると、背後からエンジン音が聞こえてきた。音の方へ振り向くと、白いワンボックスカーが動き出したところで ——


 その車は少年に近付くと、中から出てきた男が少年を車内に連れ込む。その様子にメリーが驚いて固まっていると、あっという間に走り去って行った ——

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