メリーちゃん奮闘記(全16話)

第01話 思い出の欠片

 昨夜は結局、『話の続きは明日 —— つまり今日 —— にしよう』と言うことになり、お風呂に放り込まれ、早めに寝ることになった。


 資料部屋を軽く整理し、絵茉えまさんが出してくれたお客さん用の布団に潜り込んだところで気付けば朝。不安で眠れないかも…なんて思っていたのに、やはり疲れていたんだと思う。

 なんとなく"寝なくても平気だ"と言うのは分かるのだが、身体は平気でも心まで平気とは限らない。昨夜早めに切り上げたのも、恐らくは気を遣ってくれたのだろう。


 絵茉さんは「泣くのって、案外体力使いますからねー」なんて冗談めかせて言っていたけど。


 こんなに優しくて綺麗なのに、恋人が居ないのが不思議なくらいだ。朝食の時にふと気になって、「急に居候することになって、彼氏さんとか…」って言ったらデコピンされたのだ。これは無神経に聞いたボクが悪かった、反省。



 そうして、今は朝食を終えて二人仲良く資料部屋の片づけ中である。


 と言っても、物が散らかっている訳ではない。本やグッズがダンボールで積まれているくらいだ。手分けして箱を開けていき、図書類は本棚に、グッズは棚のスペースに並べていく。


 そうして2つ目の箱を開けて中身を確認し、が何か理解して手が止まった。ボクが赤面しながら固まっているのに気付いた絵茉さんが、何事かと寄ってきては同じくフリーズ。


「—— あっ、あはは…こ、これは私の寝室の方に仕舞ってくるんでこっちの箱をお願いするっす!!」


 硬直の解けた絵茉さんはその箱を持ち、まだ固まっているボクに途中まで開けた箱を押しつけるようにして、足早に部屋を出ていった。


「—— ふぅ…あー吃驚した。ほんと、ボクばっかり驚かされるんだから、もう」


 そう言いつつ任された箱に手を付けると、その中にはライトノベルだろう、文庫本が入っていた。何かにかれるようにその内の一冊を手に取った時、何かが脳裏をよぎる。



「—— ちゃん、俺の本どこか知らねぇ?」

ソファここにあったやつなら、キッチンのテーブルに置いといたけど?」

「お、サンキュー!」

「もー、次はちゃんと片付け ——」


―――

————————


——…ちゃん。おーい、メリーちゃーん?」


 いつの間にか、目の前には絵茉さんの顔があった。


「あれ、いまボク ——」

「大丈夫です?やっぱりまだ疲れてるんじゃ、適当に休んで良いっすからね」

「いえっ、大丈夫です!残りもやっちゃいますね!」

「んー…無理はしなくて良いっすからね」


 まだ心配そうにしていたが、ボクの為に部屋の片づけをしてくれているのだ。任せきりになんて出来るわけがないじゃないか。


 それにしても、何だったのだろう。この本を見た瞬間、何かを思い出した様な...。それが何だったのかも分からぬまま、手に持ったままのその本に目を落とす。


「気になるのがあったら、好きに読んでもらって構わないっすよ」

「あ、いえ。なんだか見覚えがある気がしただけで...」

「—— どれどれ…あぁ、これ中高生に結構人気なんすよ。アニメ化もしてるんで、もしかしたら見たことあるかも知れないっすね」


 本当にそうなのだろうか。なんだか違う気がして、誤魔化すように話題を変える。


「でもこの表紙のイラスト、すっごい綺麗ですよね。人気が出るのも当然って感じがします」


 その反応は、激烈 ——


「いやー、メリーちゃんもそう思うっすか!ほんと我ながら会心の出来だと思ったんすよねぇ、ほらヒロインのこの表情なんか ————— で、この背景も ————— だし、アニメ化の際は色使いには特に注意してもらって —————」


 怒涛の勢いに目を白黒させるが、いまとんでもないことを言われたのでは…?


「我ながら…って、この表紙のイラスト...」

「私が描きました!…あれ?イラストレーターだって言ってなかったっすか?」

「それは聞きましたけど、そんな凄い人だなんて思わないじゃないですか!?」

「あはー、そう言われると照れるっすねぇ...。いや、その仕事貰うまでは細々としたもんだったんすよ?そんな時にこの仕事貰って、有り余る時間使って全力で描いたら大当たりしたんす。お陰で今は色んな仕事を貰えるようになって、ありがたやありがたや...」


 そんな衝撃もありつつ、無事に昼前には片付けを済ませることが出来た。



「—— そう言えば昨晩調べたんすけど、都市伝説のメリーさんって人形なんすね」


 お昼にうどんをすすりながら絵茉さんがそんなことを言い出した。


「そうなんですか?実はボク、よく知らなくって」

「私も似たようなもんすよ、だから調べてみたんす。…で、捨てられたメリーさんがゴミ捨て場から段々近付いてきて、最終的に『あなたの後ろにいるの』ってとこでお終いっす」

「ゴミ捨て場からなんですね。そこからは郵便局、家の前、後ろ…でしたっけ?」

「私が調べたのだとタバコ屋だったんすけど、タバコ屋もめっきり見なくなったっすからねぇ。今ならコンビニ…だと、どのコンビニか分からなくなりそうっすね...」


 それはそうだ、コンビニなんて数が多過ぎる。下手したら斜め向かいに同じ系列のコンビニがあったりするくらいだ。


「それは置いといて…調べてて思ったんすよ。昨日は『家の前にいるの』で試したけど、他のとこにも飛べるんじゃないかって。その場合、メリーちゃんの認識なのか、受け手の認識なのかは実験が必要になるっすけど」


「ってことで、今日の午後は実験をしようと思うっす!!」

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