第03話 全部不思議パワーさんのお陰じゃないか!

「—— くそう、義務教育でやるからってみんながみんな英語喋れると思うなよぉ...」


 義務教育を受けた全員が英語を喋れるようになるなら苦労なんて無いんだよ。そもそも5段階評価で評価3のボクが不意打ちで聞き取れるわけないだろ。あぁ、不意打ちじゃなくても自信ないわ。別に良いんだ、都市伝説に英語なんて必要…だったから今落ち込んでるんだよ。はぁ...。


「なんでいきなり英語なんて引くんだよぉ、確率的に考えてもそこは日本語だろぉ...」


 確率以前に、そもそも考えもしていなかったことを棚に上げて愚痴を垂れ流しにしながら…そうやって地図アプリと睨めっこをしていると、タップして出てきた詳細画面にアルファベットのアイコンが表示されている事に気付いた。


——————————

(US)通話開始

距離:765m

最短ルートを表示

アドレス帳に登録する

——————————


「んん?USって...。他は…JP、JP、JP、CN…は中国だっけ?じゃあやっぱりUSはアメリカってことだよね。電話かけた先にいる人の国籍が表示されてる、で良いのかな?」


 もっと早く気付けば良かったと苦い顔をしつつ地図アプリを弄り、設定画面に国籍フィルタらしきものを見つけて嬉々として設定したところで更なる疑問が浮かんでくる。


「そもそもこれ、どういう基準で表示されてるんだろ。通話機器なんて言ったら、スマホ全部そうじゃない?それにしては、表示されてる数はそんなに多くないし」


 街行く人々のスマホを全て地図上に表示したら、それだけで埋め尽くされるだろうことは想像にかたくない。フィルタを掛けたことで表示数が減るのかとも思ったが、確認した感じではその分JPが増えてトータルでは大差無いように見えた。


 なんらかの条件があるかも知れないが、考えても仕方ないと切り替えることにする。その切り替えの良さが元々の性格なのか、メリーさんになったことで変化したのかは定かでないが、それすら考えても仕方ないとばかりに頭の隅へと追いやった。


「それにしても ——」


 こんな場所に小さな女の子が一人、スマホを相手に百面相をしながらブツブツ言ってるのに誰も声を掛けたりしてこなかった。別に声を掛けて欲しかったというわけではない、ただただ不思議に思っただけだ。交番だってすぐ近くにあるのに、と。


「まぁいっか。色々聞かれても困っちゃうもんね」


 そう言えばもう7月に入ったというのに暑さも感じないし、歩いたのに汗一つ掻いてない。そろそろ小腹の空く時間なのにそれもないのだ、声を掛けられなかったのも不思議パワーか何かだろう。そもそも都市伝説になっているのに、それくらいのことは今更のことだ。


 ナイスだ不思議パワー。メリーさんになったのも不思議パワーの所為じゃないのか!とか、どうせなら不思議パワーで英語喋れるようにして欲しい!とか、言いたいこともあるけど全部まとめて呑み込んであげよう。


 うんうん…と、一人納得するように頷いたところで振出しに戻る。

 なにせ英語に出鼻を挫かれ、まだ誰も驚かせていないのだから。


「驚かせるつもりが、こっちが逆に驚かされるなんて…というかお手本が欲しい。スーパーのレジ打ちだって、いきなり新人一人にやらせたりしないでしょ...」


(都市伝説になってるくらいなんだから、メリーさんがボクだけってことはないと思うんだよね。まぁ、他のメリーさんのスマホも発信専用なんだったら通話は無理だけどさ。都市伝説専用のSNSとかあれば良いのに)


「もしかしたら縄張り…とはちょっと違うか。担当地域?みたいなものでもあるのかな。それならそれで、この辺りの前任者が居て教えてくれたりしないかなぁ。ここに可愛い可愛い新人さんがいますよー、へるぷみー」


 なんだかいつもより感情の起伏が激しい気がする…突然こんな訳の分からない状況に放り込まれたのだから仕方ないか。そんな不安を隠し切れない顔でポチポチと地図アプリを操作する。先程までの切り替えの良さは、英語に怯えて何処かへ隠れてしまったようだが...


「—— はぁぁぁぁぁ………、よしっ!いつまでも此処に居るわけにもいかない、気分変える為にも渋谷から離れよう。歩いてる間に何か良い考え浮かぶかもしれないしね」

 

 大きなため息と一緒に憂鬱を吐き出し、せめて言葉だけでも前向きに。

 そうして気合と共にスマホを握る手に力を込めた、その数秒後 ——


『はいはぁーぃ、だぁーれぇー?』

          「————— ッ!!!??」


 声にならない叫びを上げた。


 力を込めた瞬間、うっかり"通話開始"に指が当たっていたらしい。

 予定外のことに混乱しながら…それでも、何度か反芻した台詞が咄嗟に口を衝いて出る ――


「ボボボ、ボク、メリーさんッ!いまあなたの家の前に居ます ―― ッ!!」


 その台詞を言い切った瞬間、ハチ公広場から少女の姿が消えた。

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