第02話 都市伝説はおしごと?
—— メリーさん
「…なんで自分の名前にさん付け」
ポシェットに書かれた名前を見てそう呟いたのは、ただの現実逃避だったのだろう。
メリーさんは知っている。所謂都市伝説の一つ、それも知名度はトップクラスだろう。個人的にはトイレの花子さんとの双璧だ。とは言っても、聞いたことがある…程度のことだが。正直、話の最後がどうなるのかもよく知らない。
—— 私、メリーさん。今、あなたの後ろに居るの。
有名なその台詞。
そこで終わりなのか、それとも取り憑いて殺されたりするのか。
「ボクがメリーさんってことは、ボクが誰かを ———— ってそんなの無理無理!」
ブンブンと全力で頭を振り、嫌な想像を振り払った。
かと言って、まさか羊を飼ってる方のメリーさんではないだろう。ここに羊は居ない、いまボクの目の前にいるのは忠犬ハチ公だ。流石にハチ公を牧羊犬にしたメリーさんは居ないと思うし、自分がその先駆者になるつもりもない。どっちがいい?と聞かれたら、羊飼いの方が平和そうなのでそっちが良いのだけれど...。ただの女子高生に都市伝説は、些かハードルが高い。
「いや、都市伝説なら『メリーさん』がフルネームの可能性も...?」
当ても無くフラフラと歩き、辿り着いた先でハチ公相手にそう呟くが、返答などあるわけもなく...。どうせならハチ公も都市伝説になって動き出さないかな、なんて思う。生憎と、動いたところでもふもふ出来なさそうなのは残念だったが。
「ま、動かずにずっと待ってるから忠犬なんだよね。それより、今はこのポシェットか」
ハチ公を囲む妙なベンチ(?)に座り、ポシェットを膝の上に。
「迷子札でも入ってたら助かるんだけど...」
その淡い期待はあっさり裏切られ、ポシェットから出てきたのは可愛らしい手帳が一冊と、パステルカラーで子どものオモチャのようなスマホ。むしろスマホの様なオモチャと言った方が正しいかもしれない。幸い、操作は普通のスマホと同じようで、動作も問題は無さそうだ。
「アプリは通話とアドレス帳、それに地図だけか。アドレス帳の中は —— 真っ白ね。それじゃ手帳の方は...何これ、説明書?」
手帳を開くと、最初のページにはスマホの説明が記載されていた。
・通話アプリは発信専用である。
・アドレス帳は他の通話機器を登録することが出来る。
・地図アプリは現在使用可能な通話機器を表示することが出来る。
・表示された機器をタップすることで距離やルートの表示、通話の発信が出来る。
・地図アプリはアドレス帳に登録した通話機器の場所を表示する事も出来る。
大まかにこんな感じである。
(子どもケータイなら通話は受信専用の方が良いんじゃない?)
と、二つ目以降は一先ず見なかったことにしてページを捲ると...
「—— しごとないよう...」
―― まさか小学生くらいの少女が『仕事無いよう...』と嘆いている訳ではないだろう。都市伝説の年齢など知りようもないし、そもそも人間の法律に意味があるのかは甚だ疑問だが。ともかく、先程のページのように箇条書きの仕事内容を要約すると以下の様に書かれていた。
・人間を驚かせる、怖がらせる
・悪い人間が相手だと査定アップ
なんてこった、都市伝説はお仕事だったのか。しかも査定まであるとか知りとうなかった...。
しかも悪人の基準 is 何?それは人としての善悪が基準ってことで良いの?確か、閻魔様とかそんな感じだよね?そりゃ都市伝説が居るんだから閻魔様なんかも居るのかもしれないけど…そもそも誰が査定するの?と言うか査定って、お給料とかあるんです??
「あー…花子さんもお仕事なのかなぁ、もし会うことがあれば挨拶しなきゃダメなのかな。はは、名刺とか持ってないけど...」
などと現実逃避を続けていても何も進まないし、悩んでいても解決策など浮かばない。
どうでも良いことを考えたり楽天的に振る舞ってはみても、何も覚えてない、自分が何者か分からないというのは想像以上につらい。不安に押し潰されそうになる。それこそ、よく分からない仕事とやらに縋ろうとしてしまうくらいに。
夢であってほしい、夢なら早く覚めて欲しい…そう思う気持ちとは裏腹に、現実離れした現実が目の前にある。これが夢なら何をしようが覚めれば無かったことになるし、現実だと言うならそれこそ動かなければ。
気持ちを落ち着ける為の時間が欲しくて手帳のページを捲るが、そこには何も書かれていない真っ白なページだけが続く。まるでボクの記憶みたいに空白だ…なんて、空を仰いだ。
暫し空を見つめた後、諦めて目の前のことに向き合う覚悟を決めた。
「—— まとめると、地図で選んだとこに電話を掛けて驚かせれば良いんだよね。メリーさんらしく…メリーさんらしさってなんだ、とりあえず真似するとこから始めれば良いか...」
電話を掛けるたびに少しずつ近付いて行く…となれば、余り遠い所だと行くのがつらい。なんせ子どもの足だ、まずは練習として近い場所で良いだろう。
そして言うべき台詞を反芻し、地図から付近のビル内にある1つをタップして通話を掛け ——
「—— ボク、メリーさ『
ガチャ切りした。
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