16 昔も今も


 

 


 ◆ 語る ◆


 夢オチは思い返す。懐かしきあの世界を。

 

 夢オチとセツナ、カナタはとあるゲームで知り合い行動を共にしていた。よくあるファンタジー系のVRゲームだ。

 ゲーマーはある程度腕が同じプレイヤーと組む傾向にある。そして彼女たちも例外ではなくトッププレイヤーとして名は出回っていたのでそれほど衝突もなかった。


 姫暴、その通り名はあることがきっかけで作られ知れ渡った。

 

 その世界の名を、姫プレイ! 

 人類VS魔王。ありがちで王道。だからこそファンは少なからず多からず。

 


 

「やっぱりイベントを進行させてしか無理な設定なんですよ」

「チッ。もう、飽きたぞ」

「それはわかります」

 

 意気揚々と魔境へと乗り込んだ二人は何度も死に戻りを繰り返している。

 上位1%という一握りの二人がこうなっているのだから他のプレイヤーでも攻略は無理だと示している。


 ………………

 …………

 ……

 

 

 魔境へといくのはそれほど難しくはなかった。だが戦闘は困難を極めた。いや戦闘にすらならなかった。

 魔王という何相応しい実力が魔王にはあり、その配下もまた配下たり得る力がある。

 即死。

 ある方法以外では免れることのない力の象徴。プレイヤーだけで勝てる見込みは一切ない。


 それに抗う力を持つものがいた。姫と呼ばれる世界の希望が。

 そしてそれに加勢するのが周辺国家、神より遣わされる異界人。

 人類統合軍対魔王軍。


 姫には戦闘能力がない。ただ神具、魔王を倒し得る力を持つ武装をただ一人身に纏うことができる。

 その効力は味方にも発揮され、即死の効果を弱める力があった。

 

 戦闘能力の観点で多くのゲームでは勇者がメインNPCとして活躍してくれるだろう。だが姫を特効にしたことによりゲーム性が遥かに面白いものとなった。プレイヤーには戦闘、さらに求められることは姫の防衛。それをしながら魔王城まで辿り着き最終決戦となるわけだ。

 俗にそれを、姫プレイとも呼ぶ。それがタイトルになっているのはわかりやすいと喜ぶべきなのか、嘆くべきなのか。


 だが、姫を運ぶのは容易ではない。まず魔物が湧く魔の地帯の浄化し沸かないようにするために、浄化の神具を探し出さなければならない。探すためにプレイヤーがフィールドを血眼に走り回ってはや、1ヶ月。

 プレイヤー達はそろそろ、飽きてきているのは否定できない。


 そんなこんなで無理だとわかっていてもセツナと夢オチは魔王城へとバカ凸しているのだが。



 

 ある日から大幅にゲームは動き出す。主に1人のプレイヤーのせいで。かなり強引に。

 

 ある日、セツナはアバターを姫にした。俗に言うコスプレ。しかも超ハイクオリティでこのゲームの姫と瓜二つ。

 課金による強引な方法だが、できてしまうのがクソゲークオリティ。

 で、王国の城へ。

 ……………

 …………

 ……

 一時間足らずでセツナは姫になった!

 わけがわからない? それはその時遊んでいた夢オチの方だ。王国の城に行く道中までは夢オチが付き合っていたのだから。ちょうどその日はカナタがいなかったのもあるが。

 

 真相としては姫を暗殺し、そいつは影武者だなんだ言いくるめた。しかも姫装備を纏えるようになっているので、システム的にも承認された姫なのがタチが悪い。

 

 だが、これで問題は解決だ! とばかりに最終決戦に発展した。神具探しはもちろん中断されている。

 

 セツナは姫なので特攻持ち絶対に絶対に倒されてはならないし、危険に晒されることもあってはいけない。

 前衛達が前を食い止め、後援の魔法使いや弓使いがサポートする。そしてセツナとなぜか筆頭騎士として作戦を指揮することになった夢オチはさらに後方で安全に待機。戦闘力は解決したが、セツナ自身の防御力は姫とどっこいどっこいだからだ。

 

 事件はそこで起こった。


「夢オチさん! 姫が、セツナさんが、いません!」

「は? 」


 そう言われ思わずセツナが座っていた席を振り返る。


 (い、いねえ! あのバカ。どこいった? ……チッあそこか)


 少し周りを見渡し視界に映る異変を夢オチは見逃さない。


「予備一軍! ついてこい!」

「おう!」


 進軍して少しして見えてきたのはいるはずのない大型の魔物と戦っているセツナ。周りに魔法使いや弓使いはいるが、高速で動き回る魔物に合わせてハイスピードで位置を入れ替わり立ち替わりしているセツナに当たることを恐れてあまり撃てていない。範囲攻撃などは論外だ。

 

「予備一軍援護! セツナ! 引けアホ!」

「はーい」


 すぐさまバトンタッチ。


 夢オチはセツナを連れて最後尾へ戻っていく。


 ◆


「このアホが! なんで抜け出した!」

「わかってるから、軍を引き連れて助けに来てくれたんじゃないんですか?」

「違う! お前は見つけたらすぐに報告だけすればよかったんだ!」

「私が行かなかったら後方軍は小さくない被害が出てましたよ」


 セツナは待機している人の中で最も早く援護に行ける。魔の地帯だって平面状ではない。山あり谷ありの環境さえも過酷な状況で障害を障害を飛び越えるのはお得意のPSとトッププレイヤーとしての力。

 本来なら湧くはずがない魔物を見つけ、報告も無しに飛び出して行ったのにはお咎めがある。さらにセツナは姫という一番重要な役。


「セツナが行かなかったら被害が出て作戦に影響があったのは認める。だけどおめえは! 後方軍何十人より遥かに重い命背負ってる! お前一人があそこでやられて進行不可になるのが一番困るってなぜわからない?」

「だからと言ってあの人数がやられるのを見過ごすわけには行かないでしょ!? あんだけの数を切り捨てるにはまだ早いし、重すぎます!」


 どちらの意見も一理ある。確かにセツナが駆け出さなかったら、セツナじゃなかったら犠牲は出るし後方軍は今後の作戦には切り捨てていいわけでもない。後方軍からすれば後ろからの不意打ちを助けてもらったことにもなる。

 だがセツナが駆け出したことでセツナ自身がやられ魔王討伐不可となる可能性は大いにあった。

 全体的に見ると……セツナが100%悪いとは言えない。


「それに、私は命を見捨てたくない!」

「お前がやられたらゲームオーバーだってことを認識しろって言ってんだよ!」


 実にキリッとした真面目顔で命を見捨てたくないと宣言する。それが剣と剣がぶつかる音が鳴り響く場所・・・・・・でなければ、普段からプレイヤーをデストロイしてなければ聖人と見られることもあっただろう。

 

 (あ、こんな真面目な顔もできるんだ。……いや違う。そんなことじゃなくて。……言っていいのか? いや言えねえぇー)

 

「お前が無表情を崩す時はわざとだって、何か隠したいことがある時だって知ってんだよ! どうせ闘い足りなかっただけだろうが! お前の命が作戦に直結する! 危険な行動をするな! わかったか!?」


 (あ、そうなんだ。へえ偽物なんだその顔。……いや違う。そんなことじゃない。思いっきり……いや言えねえよー)

 

「とにかく、お前の命が危なくなるようなことをするな! いいな!」

「夢オチ……思いっきり、特大のブーメラン刺さってますけどおぉー!?」


 (い、言ったぁぁぁーー。あいつがいてよかったぁぁぁーー) 

 

 二人がしているのはただの口論ではない。

 口論ではないならば何か、単純な斬り合いである。直剣とタガーという違いはあるが。

 そもそもがこの後方の超安全地帯に剣同士がぶつかる音が鳴り響いてるのがおかしい。

 

 何を隠そう夢オチとセツナが真正面から斬り合っている。どちらの攻撃も器用に交わし受け流しながら。

 

「超・特・大ブーメランが現在進行形で投げられてずっと突き刺さってますよぉぉ!? いやずっと投げられて何十にも刺さってるのか。セツナの命が危ない行動を今、お前が! やってるんですけど!?」

「うっせ。決められた型で斬り合ってるだけだ。危険はねえよ」

「あっぶな」

「どう見ても危険しかなさそうなんですけど!? 本気でやり合ってません!? お前らの火力クレイジー! 俺らの防御が紙装甲! そのお前らの防御はタンクの俺らの何百分の一でしたっけ!? 事前にそう言ってたの他ならぬ夢オチじゃなかったか!? 

 

 本人達からすれば思いっきり手加減した中での斬り合い。本当に当たることなんてないが、他のプレイヤーからすれば手が出せないレベルでの戦闘には変わりない。


 ◆

 

 なんだかんだあったが、セツナはその後も抜け出し、その度に夢オチと斬り合う。度々低レベルの口喧嘩も混じっていて周囲からの暖かい目線と、何してんじゃぁ! という冷ややかな目が混じった生ぬるい空気が漂っていた。

 

 その後なんとか魔王は討伐したが、その後とある掲示板で、最後の希望の姫が前線で暴れる。それを略して姫暴という二つ名がついた。

 セツナはその二つ名を嫌がっているが、自業自得だ。

 

 夢オチは思い出にふける。

 そうして夢オチは一生その呼び名で行こうと心に決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る