15 夢オチ


 


 勝った! カナが放ったデカ火槍の横にジャンピング水平突っ込みで隠れることによって相手の視界から私を見失わせ後ろをとる。

 

 一発で上手くいってよかった。なんとなく、行ける気がした。この身体の力は十分に把握できる時間も、試せる状況もあった。後は賭け。




「ふう。終わったね」

「しんどい」


「そのしんどさは、綺麗な夕焼けでも眺めて、上書きしな」


 微妙にポエムっぽくなるカナ久しぶりだなぁ。

 夕焼けかあ。あ、本当だ。周りには何にもなく、とてもいい夕焼け。 もう日も落ちてそろそろ暗くなってきてる。

 うん? 夕焼け? 暗く?


「カナ、このゲームってさ。ゲーム内時間とリアルって連動してる系だよね?」

「うん、そうだよ」


 すぐに時間を確認してみる。時刻は6時、近い。


「ごめん、カナ。まだ夕食の準備とかなんもしてない!」

「ああ〜。考えてなかった。私は一人暮らしじゃないからな〜」


 カナはカナのおばあちゃんちに高校進学の時から移り住んでいる。



「セツとゲームするの久しぶりで、いつも通りの感覚だから」



 このゲームを始めたのが昼過ぎだから十分遊んだことになるけど、カナと同じく、いつもの気分が抜けきっていなかった。いつもはお母さんがご飯作ってくれてたからな〜。今になってありがたさを目の当たりにするとは。


「じゃ、ご飯食べて、色々したら戻ってくる!」

「私はおばあちゃんが呼ぶまで狩りしてるね。この場所でログアウトすると、戻ってきた時モンスターに囲まれることあるから。わたしがいないだろうし、気をつけてね〜」


 ◆ 自宅 ◆ 


 戻ってきたぁ!

 濃密な時間だった。

 


 さて、ご飯の準備です! お風呂とか、明日の学校の準備とかもやってからログインしたい!



 母さんはね私が家事が出来ないって心配してた。だけどね、機械を使えば私だって家事ぐらいできるのです! まあ使い方を覚えるのに手間取ったけど。機械はいつも使ってるはずなのに。

 

 今日の夕飯は肉じゃがです。ちゃちゃっと材料を切り、電子鍋にポイっとして、適当に味をつけて待つ!

 後は炊いておいたご飯と一緒に。


 いただきます。

 うまうま。うまうま。


 

 そこからはお風呂に入り、明日の準備などをした。

 もう寝れるようになっている。

 寝ないけどね。 


 カナから「もう少ししたら集合しよ」って連絡が来たし、そろそろログインしときますかね。



 ◆ログイン!◆


 さて、色々調べておきたいことがあるんだ。

 まず、戦闘の時に流れたログ! いやーあのログってさ、私がゴミを貰った時に流れたログと似てるよね? 完全に関連性があるよね? 

 ゴミ箱を詳しく見とくか。


 

 


 

 あ! これって、つまりはそういうことか? 

 【異次元のゴミ箱】の説明によると繋いだ場所のゴミを強制的にこっちに収納させる能力。つまり新しく壊れた装備が、接続した【壊れ装備の倉庫】に投入されたってことでしょ。

 修理して欲しい装備を投入箱に入れた。少し前に盗人が出てたとしても、新しく入れたとしても不思議ではない。

 残念だったな! 私のゴミ箱は遠隔泥棒が可能! で、またもやワールドアナウンスで放送されたと。  


 あの時は隙を作り出してくれたアナウンスは私が引き起こしたということだよ。

 私が敵の隙を作り出したのだ!


 

 さて、次はゴミ泥棒クエストかな。詳しく見ていくと、私のゴミ箱を取られない、調べられない、ってのがバレない条件。

 

 PKとかで奪われたら、バリバリ証拠品だし、特定の人なんかは調べることすらできるらしい。

 まあ負けなければオーケーだし、調べるのにも色々あるらしい。


 とりあえず放置! このクエストは解決するまでずっとだからね。解決する時ってのは私が捕まった時。

 ぜったい捕まらないもんね!



『カナタがログイン』

 

 あ、カナ来た来た。


「さーて、頑張って今日中に街まで行こうか」

「オーケー」


 



『フロッグ(レベル16)に、ダメージを109与え、撃破。経験値を315獲得』

「セツ〜?」

 

 どうした、相棒!


「今、セツは相当堅いから、もう少し攻撃を受けてもいいんじゃない?」

「努力する」

 

 わかってるんだけどね。身に染みちゃってる動きは急には変えられない。避けた方がいいという考え方でずっとやってきたもんだからね。

 けど上がったステータスを使わないのも勿体無いし、努力はしてみるとカナに宣言はしておくのだ。 


 



 そっからは街までひたすら走り続けた。

 途中出てくるモンスターを軽く捻りながら。


「いやー火系魔法もいいもんだね。普段は水だから新鮮だよ」

「そういうとこでサブ垢ってずるくない?』


 普通に考えたらサブってのはずるい。


「このゲームのサブは制限がたくさんあるからそこまでずるくないんだよ? サブと本垢を変えるのは一日一回、朝6時リセット。変えれる場所も決まってて、街とか、特定の場所でしか変えれない。魔法が効かない相手が出てきたから、フィールドで物理のサブ垢に変えて撃退! なんてことはできないし。まあサブ補正もあるにはあるけどね」


 ほう? ゲーム側からサブという仕様があるゲームは何十やってきた。けどこのゲームはかなり重ための制限がついてるそうだ。

 大体はカナが言ったような使い方をするためにサブという仕様があるのに、それができないとは悲しい。けどバランス的にはそれで取れているのも、また事実。


 


 それから進み続けること1時間程度。


「ここからモンスターがかなり強くなるから注意ね」


 そこからカナにこの危険を教えてもらった。レベル50がうろついてることもある。超がつくほど危険地帯!

 

 

 これから私達がいくところってもっとレベリングして、強くなってから行く場所なのでは?


「今のわたし達なら、なんとか逃げ切れるはず」

 

 あ、逃げること前提なんだね。


 カナは近づかれたら負けと割り切り、スピードで逃げ、遠距離からの高火力に全振りしている。

 まあカナは私みたく避けの技術はなく、本当にステータスの恩恵によって逃げ切ることしか出来ない。私みたいに避けれるようになってたら、相当な化け物に生まれ変わるでしょうね。けど、もう10年近くしているのに出来なかったので、今後もできるようになることはなさそうだけど。




 そっからはひたすら走ったね。うん、ここ数時間、私走ってしかなかったんじゃない?

 ボスモンスターから逃亡もね! このゲーム自由だからね。ボスと戦闘しなくても次のフィールド行けるんだよ。


 というわけで、やってきました! 港町スクーティス!

 夜のせいで静まってるけどね。そのおかげで星空がよ〜く見える。綺麗。月も複数ある異世界設定でございます。


「じゃ、案内するね。ギルド【はっ! なんだ、夢か!】に」 

 

 うん? なんか、とてつもないギルド名が聞こえた気がしたんだけど。気のせいかな?


「ギルド名、ワンモアプリーズ?」

「【はっ! なんだ、夢か!】、だけど?」


 聞き間違いじゃなかったぁーー! 気のせいじゃなかったぁーー!

 なんていうギルド名なんだ。ギルマスの顔を見て見たいね。

 うん? そういえば私の知り合いなんだっけ?

 え、私あんなギルド名をつける人と知り合いだった記憶がないんですけど。



 セツに案内され、ギルドの前までやってくる。

 いざ来てみると緊張するもんだ。カナ経由で歓迎するとは言われてるけど、緊張するもんは緊張するのです。



 扉を開けて中に入っていく。すると中から豪快で、それでいてどこか懐かしい声が聞こえてきた。


「よお、姫暴きぼう!歓迎するぜ」

 

 むむ!? 中で待っていたのは、どこか威厳がありそうな光り輝く鎧を纏った女性だ。

 そして私自身が無視できない単語が聞こえてきた。

 姫暴きぼうと言う単語は私にとってかなり、嫌なものなのだ。それを知っている人は限られてくる。更に、この態度に、懐かしい声。それらを合わせると、嫌でもわかってしまう。

 

「夢オチさん?」

「お、しっかり覚えてんじゃねえか。姫暴きぼうのことだから忘れてると思ってたぜ?」

 

 姉さん、と言うよりは姐さん気質なのだ。夢オチさんは。


 そして、ギルマスが夢オチさんだとわかって、ギルド名はかなり納得ができる。まさしく夢オチさんらしいギルド名だね。

 けど私のことを姫暴と呼ぶのは許さん! 許さんぞ!


「姫暴ってのも、いい加減やめてください」

 

 姫暴というのは昔のゲームでの二つ名みたいなもんだ。まあ、とても不本意だけど。


「お、彼女が新しいギルメンか?」

「新しいギルメンさんがきたんですか?」

 

 私がきたことでギルドメンバーがやってき始めた。

 

 30代ぐらいの見た目にしっかりとした無骨なヒゲ、どことなく西洋のガンマンを彷彿とさせる渋声のイケオジ。

 若い声なのにとてもガッチリとした体、柔らかい雰囲気のお兄さん。

 見るだけでわかる。濃いなあ、メンツが濃い! キャラが渋滞してるよ。

 


「おお、新しく入る予定の姫暴のセツナだ」

「だ〜か〜ら! 姫暴って呼ぶのはやめてください!」

「おめえをあれから姫暴ってずっと呼ぶと心に誓いつづけてるからよ。無理な話だ。それにしても、姫暴。ずいぶん雰囲気がかわっちまったな?」


「ハイハイ。喧嘩はそこまでです」

「カナタがいくら仲裁しようがあたしは呼び方を変える気はないからな」


「カナタちゃん、どうなってんの? なんでギルマスがここまで張り合うわけよ」

「おい、カナタ嬢。ギルマスを止めな」


 姫暴呼びを撤回してくれれば、私だって喧嘩なんてしないから! 夢オチさんが悪いんだよ。


「姫暴呼びは絶対だ。あれは傑作だからな。いくら話しても話したりない。話してやるよ」

「ちょ、やめてください!」


「うるさいね。そこにあるお菓子でも食べてな」

 

 私を食べ物ごときで釣れるとでも思ってるのか! まあ食い付きますけど。

 ムシャムシャ。ゲームだから、夜中にお菓子ってのは背徳感ましまし。それでいて美味い。


 私が気にしてないうちに夢オチさんは、語り出した。


 いや、語らないで! 黒歴史だから! やめて!

 ……お菓子うまい。 


 

 

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