14 狂ってる
(ミスった、ミスった)
男らは焦っていた。リーダーがやられたことでひとまず体制を整えようと後方へと引いている。リーダーがやられたことでヒットアンドアウェイに徹し一撃離脱を繰り返す。
彼らにとって今回はたくさんの誤算とミスが詰まっている戦闘。
(まずい、こんな予定では)
◆
彼らにとっては誤算ばかりだ。……まあ嬉しい誤算もあったのだが。
誤算、それは
見誤っていたというよりは、前提情報が違ったのはカナタだ。まだ高レベルプレイヤーでもなんでもない彼らでも要注意人物カナタの名は知っていた。
高火力水魔法使い、としてのカナタを。
戦ってすぐに違和感に気づいた。低級の火魔法しか使ってこないカナタに最初は何か企んでいるのかと思ったものの、ピンチになったとしても火魔法しか使ってこない。水魔法を使わないのではなく、使えないのだと勘付いた。何故か、は知らないし今知る意味もない。その情報だけが今覚えておくべきことだからだ。
カナタが予想よりも弱いことは歓迎すべきだ。だが、その誤算を上回る怪物がカナタを守っている。
セツナに関してもある程度は警戒されていた。だが、どんなに見繕ってもハジマチ近辺では10レベルぐらい。新発見の装備も、どんなに高く評価しても10レベル分の力もないと予測されていた。
こちらの予測も、戦ってみてすぐにもっと上のレベルだとは理解した。
(だが、自分達を上回るほどのレベルではない)
押し切れる! そう考えるのは当たり前だ。丁寧にバフまで炊いて、狩れるはずだった。
こちらは5人。相手は二人。それも、自分達より遥かにレベルの低い。
それで、何故、ここで押せない?
イヤらしい位置に入り込み、あわよくば同士討ちさえ狙ってくる集中攻撃も恐れない胆力。重要な攻撃を見極めて、崩す技。意識外から飛んでくる小石。
そもそも一人で前線で、レベルの高い自分達の攻撃を何故躱し、受けれる?
レベルではない、PSの差が顕著に表れている。
もちろんカナタも中々に危険だ。セツナとのコンビネーションにおいて。
彼らの知るカナタはあんな風に、人に合わせて何かをするプレイヤーではない。圧倒的な個。それが伝え聞くカナタというプレイヤー。その個の力は弱体化している。弱体化しているのに、人と組まれるとああも厄介なのだ。
しかもセツナの邪魔に、ならないようにその魔法は足止めや牽制メイン。足を引っ張らない動きを的確にしてくる。近づかれたとしてもセツナの手助けが間に合うように戦っている。
育まれてきた友情によって声をかわすことすら少ない。
魔法を使う以上ジリ貧。時間をかけて倒す方向にシフトし、後ちょっと。そんな時に起こったリーダーのデス。
一人落とされたことで、拮抗とまではいかないものの、油断=死を招く状況に陥った。
命乞いや休戦が意味ないことも、よーくわかった。
もう、戦うしかない
「散開! カナタからだ!」
前線のセツナは倒しきれない。このままやる以上どちらもジリ貧なのだ。ならどうするか。後援からやるのが最もいいと判断した。一瞬で彼らは目を合わせ動きを合わるアイコンタクト。即席で作られたパーティーだろうとこれぐらいはやれる。
散らばるのを許さないように、左右の進行方向に放たれる日槍。だけど、カナタらしくない。距離が不自然に自分達と離れているし、少し高い位置に放たれている。なぜ? でもそんな疑問は考えてる暇はない。
自分たちに攻撃を一対五でも軽々避けるセツナ! 彼らはその危険人物を視界に入れようと首を動かした。
「おい! いね……うぐっ!」
(う……しろ? どう、して。何が起きたんだってばよ)
セツナがいないことに気がついたその瞬間、後方から頭部への打撃。
なぜ、後ろにセツナがいるのかを理解する暇すらなく、一瞬でHPは削り取られた。
◆
ぼ、僕はちゃんと見ていたぞ。
まず襲っているのか襲われてるのかは理解できないけど、男達が一瞬目を離したその隙にカナタが巨大火の槍を放った。
それと同時にあの掃除コスの女の子が、頭から飛び込むようにして体を平行にし槍スレスレで前方へ跳んだんだ!
いや、どゆこと?
そしてその魔法を男達が避けて魔法が視界外に移った瞬間、即座に地面に手をつき、音を極力出さないように着地。
そのまま一番後ろにいた男に持ってたホウキを振り下ろした!
いや、どゆこと?
自分で見たことなのに、夢みたいな感覚は初めてだ。それぐらい、自分で言ってて理解ができない。
まじで、どゆこと?
振り下ろしたホウキで男の体が前に重心が傾き、それにすかさず女の子が左足を引っ掛け前方に倒し、自分も倒れ込むようにして右膝で蹴りを入れてすかさず何かを取り出して何かをした。遠目でじゃよくわからなかったけれど。
そしたそのまま後方から迫る女の子と、カナタの魔法との挟み撃ちの形になった。見てるこっちからでも脳が理解するのを拒否したぐらいで、本当にあっという間のことだった。残った男達もまだ状況に追いつけずまともな反応ができるわけがなかった。そのまま壊滅。
……理解不能。
言葉にするととてつもなく軽いように感じるけど、やっぱ女の子を理解できない。
考えてみてほしい。
普通、頭から突っ込む感じで体を平行に槍と完全に同じ速度で、地面から男たちから見えないように角度を調整して、少し、魔法と自分の跳んだ角度が少しズレてるだけで、その魔法を喰らうような、イカれてるとしか言えない行動を、理解できるか?
やっぱり理解が不能だ。
……ふうううう。よし冷静冷静。
今冷静になったからこそ、言おう。理解できない。
それに、今だからこそわかる。思い返せる。
確かに、魔法を隠れて前線部隊が突っ込んでいく戦法もある。だけど、それは地面と接する大きな、火球や水球、土球でお遊びでやる技にすぎない。
決してあんな地面から高い槍の巨大バージョンで、平行に突っ込みながら何メートルも飛んでいくようなイカれたPSと魔法使いとのタイミングを合わせたりする連携が必要になる戦法じゃあない。
壊れたロボットのように表情筋を死なせ、なのに動きは最新式ロボットのように繊細で美しい女の子はまたおかしなことをするだろうという妙に確信に近い、そんな予感がした。
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