14

 緊張で気絶しそうになりながらも、放課後の帰り道で、私は大地くんに返事をした。学校近くのおまけみたいな公園で、ごめんなさいって頭を下げた。そんな気持ちになれないから、付き合えないって言った。

 彼は怒るどころか落胆もせずに「そっか」って笑ったから、私は少なくとも驚いた。

「こっちこそごめん。悩ませて」

「うっ、ううん、あの、私の方こそ……」

「もう謝らないでくれよ。泣いちゃうぜ?」

 本気か冗談か分からない台詞を言う彼は、どこかさっぱりした表情。

「フラれてすっきりしたよ。梓ちゃんの口から聞けてよかった」

「すっきりしたの……?」どういうことだろうか。

「電話やメールでぱぱっと済ませないところが、ほんとに好きなんだ。緊張したんだろ、顔赤いよ」

 うっと声を漏らして、私は自分の頬を軽くつまむ。すぐに感情が表に出てしまうのが恥ずかしい。

「だから、口で言ってくれてよかった。俺も諦めがつくし、片想い募らせてるのも辛いからな。見てるだけってのは、俺には合わないみたいだ」

 はきはきと自分の気持ちを口にする大地くんは、本当に尊敬できる。みんなに好かれるのも納得だ。

「大地くん、かっこいいね」

「ありがと。でも、一つだけ頼みがあるんだ」

「頼みって」

「これからも、友だちでいてくれる?」

 私は大きく頷いた。「もちろん」そう返事をして、私たちは笑い合った。


 佐久間大地が七瀬梓に告白したことは、いつの間にか知れ渡ってしまっていた。校内だったから、誰かが目にして言いふらしたんだと思う。だから学校の外で返事をしたのに、何故だかそれさえもすぐに広まって、夜になると結々から電話がかかってきた。

 本当は、結々にどんな顔をすればいいのかわからない。彼女の好きな人が私に告白して、そのうえ私はそれを断った。結々の気持ちは複雑だろうし、私に対して嫌な気持ちをもたれても仕方がない。

 だから恐る恐る電話に出ると、「大地くん、フッたの?」と第一声で結々は言った。気まずい思いで返事をすると、「そっかあ」と言ったきりしばらく沈黙した。

「梓には合わなかったんだね。大地くん、残念」

 そして結々はけらけらと笑った。思わぬ反応に、私は何と言うべきか迷ってしまう。

「あの、結々……」

「わかるよ、気まずいって思ってるでしょ。だって私の好きな人だもん」

 ごめんって謝るのはきっと嫌味だ。それならどうしたらいいんだろう。

「梓は優しすぎるって。そんな気にしなくていいのに」

「別に、優しくなんかないよ」

「あたしが男だったら、きっと梓が気になってたなあ」

 思わず「へ?」って声を漏らすと、結々は可笑しそうにまた笑う。

「だから、そんだけいい子だよってこと。自信もちなよ、梓。そりゃあ、あたしだってしょーじき言うと、羨ましいよ。告られてめちゃくちゃいいなって思うよ。けどさ、それとこれとは別の話じゃん。これで梓と仲違いする方がずーっと嫌」

 結々が電話をかけてきてくれた理由がやっとわかった。彼女は私の不安を察して、励ますために声をかけてくれたのだ。

「結々……」思わず泣き声になってしまう。

「梓が大地くんと付き合っても付き合わなくても、あたしは二人が好きだよ?」

 うーって、私は小さく唸って鼻をすする。「ありがとー」

 私は本当に幸せ者だ。好きな人たちに囲まれて、こんなに幸福な女子高生は他にいない。

 嬉し泣きの涙を流しながら、私は目まぐるしく平穏な日常を噛み締めたのだった。

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