異世界転生

@rona_615

第1話

 トラックにぶつかり異世界転生。もはや陳腐な展開だ。新たな世界に生まれ出る前に“オープニング”的な場面が用意されていることも。

 それを笑い飛ばす余裕は、しかしながら、今の自分にはない。本当に、今いるこれがそうなのかは定かではなく、陳腐だという蔑みも、ある意味では希望でしかないのだから。

 目の前には彫刻で飾りとられた門。美術の教科書で見た“地獄の門”とやらにそっくりだけど、隅から隅まで真っ白。それが、床も壁も天井も白い部屋の中に置かれているから、なんだか平衡感覚を失ってしまいそうだ。

 その前に座る男の着物の、その赤色が目に痛い。何事かをずっと喋っているみたいだけど、日本語でも英語でもない、その言葉の意味を知ることはできない。

 ただ、妙に懐かしさを覚える、そいつが、笑みを浮かべているんだから、きっと、悪い話ではないはずで。問いかけるように上がる語尾や、首を傾げる仕草に、頷いてみせる。

 僕が、酷い目に遭う、そんな理屈はない。

 そんな、通りに合わないことは、起こるわけない。

 根拠はないものの、確信はあった。それは門が開くまでは続いた。

 押し上げられた2枚の扉。柱の間から覗いたのは、先の見えない闇。

 背中を押す手。その持ち主の表情を、僕が知ることは、ない。

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