第5話



「うひー、すげーっす」



宙から半透明な何かが化け物に降り注ぎます。

少しだけ光を屈折するそれはなんだか雨のように見えて幻想的っす。


私も魔法覚えたら、こんなことできるようになるんすかね。



「アガアアアアアアァァァ!!」

「ビギイイィィィィイ!!!!」



「……なんだこれは。これが、君の言っていた『魔法』なのか……?」


「隊長……!」

「化け物が……死んでいく……」

「俺たち、助かったんだよな……?」



さっきまで半泣きだった自衛隊さんたちが呆気に取られてるっす。

そりゃそうっすよね。誰が見ても押し負けるのは時間の問題でしたもん。


まあこれで解決って話じゃないんすけどね。

まだ街には化け物がいっぱいいますし、逃げる先も無いわけですし。


でも少なくとも、先輩とここにいる間は安全なんじゃ無いかって思っちゃうのも事実なんすよね。



「あ、先輩、お疲れっす!」

「他愛無いな。魔族の一人も現れて欲しいが」


先輩の中では魔物と魔族って区別してるみたいっすね。

この辺もあとで詳しく聞かないと。



「君がやったんだろ、青年」



あ、先輩と一緒に前に出た隊長さん。


「ありがとう。……で良いのかな?」

「礼は要らん。それより情報をよこせ」


てか先輩誰にでもそのスタンスで行くんすか……?

元からか……だから変人扱いされてぼっちになるんすよ。


「あ、ああ。ところで君たちは……」

「こっちが阿手原あずはらせんぱ……じゃなくて素粒子研究家の阿手原で、私が物理学研究してる平野っす!」

「阿手原くん、平野さんだね。平野さんも魔法を?」

「まあ……はは。そのうち?」

「……?」


勉強すれば使えるようになるみたいっすよ。

と言いかけたところで先輩が痺れを切らします。



「いいから今の状況を教えろ」

「ああすまない。とはいえ私たちも何もわかっていないんだ……東京へ『魔族』と名乗る未確認生物がテロ行為を働いて、化け物どもが周囲へ流れてるとしか……」

「使えんな……無駄足か」



まだ私がネットで情報を見てから3時間ぐらいっすからね。

そこから大きく状況は動いてないってことっすか。


このままじゃ先輩は東京に向かうっすよね……。

まあ着いていくのはもはや別に良いんすけど、ここの人たちをどうしますかね。



「平野、いくぞ」



ほらきた!



「まってくれ! どこへいくんだ?」

「東京だ」

「!! ……100歩譲って君たちがなぜ魔法を使えるのかは聞かない。だか、今ここを離れたら住民たちが!!」

「それはどの地域も同じだろう?」



隊長さんは苦虫を噛み潰したような顔で黙り込みます。

そりゃ、目の前の人たちを見捨てるのかって気持ちもあるでしょうけど、先輩の言う通り他にも救うべき人たちがいるかもしれないっすもんね。



先輩が踵を返して化け物たちが流れ込んで来ていた正門を向き、つぶやきます。


「……霧式、花頭はながしら


するとまた半透明な何かが空を覆ったと思うと、すぐに見えなくなっちゃいました。



「今のは……」

「出る時は出れるが、外からは入れん。しばらく大人しくしていろ」



あた新しい魔法っすか?

先輩、私らが必死に研究費調達してる間にこんなことに時間使ってたんすね……ありがとうございます!!!


私の想いが届いたのか先輩は不機嫌そうにこの場を後にします。

いや、感謝ですからね? 都合いいとか思わないでくださいね?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る