第2話



「ほう……やはり魔力前提の身体構造……魔力がなければ生命維持すらままならんだろうな……たが器官に特殊なものはないと……」



阿手原先輩がぶつぶつ言いながら豚を解体してるっす……おえ。

あの化け物を目の前に一切動揺しないのも、平気な顔で解体するのも、常軌を逸してるっすね……。



「なんかわかりましたか……」

「ああ、大体のストーリーはこれで当たりが付いた。やはり東京へ行かねばならんな」



ええ!!

何言ってんすかこの変質者!!

東京は占拠されたって言ったじゃないっすか!!!


「嫌っす!! 一人で行ってください!!」

「俺は構わんが、お前は良いのか?」



あ、これ私、先輩と離れた瞬間襲われて死ぬんじゃ……。



「嘘っす。付いてきます」

「俺は構わんが……」

「でもでも先輩〜〜〜ちょっとは私のペースにも合わせてくださいよ〜〜」



なんもわかんない私を嘲笑うかのような状況も進展も先輩も、精神に悪すぎるっす……。



「しかたない。探索がてら少し話してやろう」



先輩の車に乗って山の麓へ走ります。

こんな辺鄙な研究所だから誰とも会えないし、ネットもテレビもさっきから繋がらないし……世の中の状況が全然わからないっす。



「まず、俺が魔力を検知したのは2日ほど前だ」

「え!?」

「あらゆるパターンを想定した86個の検出器のうち、4つが反応を示した。その時点で魔力の性質も由来も、ある程度あたりは付いている」


あの無意味な穀潰しでしか無かった研究が、まさか役に立つ日が来るとは……世の中ほんとにわからんもんすね。


「穀潰しで悪かったな」

「心も読めるんすか!!?」

「顔に書いてあっただけだ」


てへ、って顔をしても無反応。さすが阿手原先輩、魔法以外にはとことん興味ないっすね。


「魔力の性質がわかれば、あとは俺の魔法理論をそれに合わせて再構築するだけだからな。さっきの術式も精度、強度ともに検証済みだ」

「だから焦らなかったと……」


そこまでやってたならこの状況も想定できてたような気がするんすけど……さすがに望みすぎっすか。


「で、今何が起きてるんすか?」

「それはまだわからん……が、魔力のある環境から奴らがやってきたのは事実だ。それでも俺の2,000ある『魔法実現仮説パターン』のうち、まだ100にも絞れていない」



なんすか『魔法実現仮説パターン』って。そんなもん作ってるから穀潰しって言われるんすよ。

まあそのおかげで今はこの上なく頼もしいわけですが。



「お前も魔法については学んでおけ。後ろに基礎理論の論文を積んである。自衛ぐらいはできるようになれ」

「私が魔法使うんすか? 無理っすよ、普通の女の子っすよ?」

「腐っても物理学者の端くれだろ。それに俺だって特殊な能力があるわけじゃない。理解さえ深まって研鑽を怠らなければ、誰でも術式は使える」



物理学者って意味じゃ別に腐ってないっす。女子としては腐ってるかもっすけど。



「だがそれは後になりそうだな」

「ん? あれ、私たちの街っすよね? もしかして……」

「遅かったな——既にもぬけの殻だ」



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