第4章80話:エピローグ

――――3ヵ月後。


アリスティは、鍛冶屋かじやにいた。


あるモノの製作を鍛冶屋に依頼していたからだ。


「ほらよ。頼まれていたものだ。受け取ってくれ」


「ありがとうございます」


とアリスティはお礼を言った。


渡されたのは、花の形をしたアクセサリー。


ミズヒイロを模したイヤリングである。






さらに、アリスティは、このイヤリングに特殊効果を付与したいと思った。


しかし頼める付与術士ふよじゅつしがいない。


なので領主フリーナに相談して、付与術士を紹介してもらった。


女性の付与術士である。


その付与術士に、イヤリングを渡し、付与をほどこしてもらう。


イヤリングに「冷気れいき」の特殊効果が生まれた。


身につけていると、涼しくなるというものだ。


何気ない効果ではあるけど、暑い日や、夏場なつばにはありがたい代物しろものであろう。







さて。


アリスティはアトラミルカのアパートメントにいた。


アパートメントの一室に部屋を借りているためだ。


そこで母、ユーナと三人暮らしである。


母はすっかり容態ようだいが回復し、魔力病は完治している。


身体中にできていた斑点はんてんも、すっかり消え去っていた。


この日……


アリスティは、母とユーナに別れの挨拶をしていた。


「お母さん……ユーナ……予定していた通り、旅に出ようと思います」


アリスティは告げる。


「今までお世話になりました」


そうして頭を下げた。


ユーナが告げる。


「こちらこそ……アリスティには、本当にお世話になったわ」


アリスティが頭を上げる。


ユーナが続けて言った。


「気をつけてね。帰ったら、土産話みやげばなしを聞かせてね」


「はい。もちろん」


アリスティがそう応じた。


次いで、母が告げる。


「アリスティ……私は、あなたにとても感謝しています。感謝しても、しきれないほどに」


「お母さん……」


「あなたならば、どこでだってやっていけるでしょう。せっかく再会できたのに、またはなばなれになるのはさびしいですが……私は、旅に出たいというあなたの決断を、尊重します」


「ありがとうございます、お母さん」


アリスティがそう答える。


そしてアリスティは、荷物をまとめて、玄関の扉を開ける。


最後に振り返って、告げた。


「それでは、いってきます。また会う日まで、どうかお元気で」


アリスティは玄関を出て、アパートメントをあとにした。








旅に出る前に。


最後にしておきたいことがあった。


挨拶回あいさつまわりである。


アリスティは、お世話になった人たちへ挨拶をして回った。


冒険者ギルド。


領主フリーナ。クレディアなどなど。


そして、あらかた挨拶をし終わって……


最後に訪れたのは、ルクスヴェンだ。


そこでアリスティは、どうしても挨拶をしておきたい人物がいた。


ベルニーである。


1時間ほどルクスヴェンの街を探し回って、ようやく見つけた。


東門ひがしもんの出口――――


ベルニーが、冒険に出ようとしていたところだった。


「ベルニーさん!」


アリスティは呼び止めた。


「……アリスティ?」


ベルニーが振り返り、驚いたように目を見開く。


「わぁ……久しぶりだね? 元気してた?」


実はベルニーとは、以前に別れたきり、一度も会っていなかった。


数年ぶりの再会である。


「はい。おかげさまで、母を助けることができました」


アリスティはそう答えた。


さらにアリスティは続ける。


「実は、私、旅に出ることにしたんです。だから最後に、ベルニーさんに挨拶をしておきたいと思いまして」


「あ……そうだったんだ」


ベルニーが微笑む。


アリスティが、アイテムバッグから、ミズヒイロのイヤリングを取り出した。


「こちらを、受け取ってください」


ベルニーがイヤリングを受け取る。


尋ねてくる。


「……これは?」


「冷気の効果を付与したアクセサリーです。私から、ベルニーさんへのプレゼントです」


「え……もらっていいの?」


ベルニーが驚いたように聞いてくる。


アリスティはうなずいた。


「私は、ベルニーさんに救われました」


アリスティが告げる。


「あの日……大陸を渡ったあのとき、途方とほうれていた私に、ベルニーさんが手を差し伸べてくれました。大陸の言語を教えてくれました。――――だから、恩返しをしたいと思ったんです」


「……そっか」


ベルニーがはにかむように微笑んだ。


「うん、ありがとう。じゃあ、もらっとくね」


ベルニーがイヤリングをさっそく、自分の耳につけた。


「似合ってるかな?」


「はい、とても」


お世辞ではなく、ベルニーにとてもよく似合ったイヤリングだ。


アリスティは微笑んだ。


「それでは……私は、これで失礼します」


「旅に出るんだっけ? じゃあ、お別れだね」


「はい」


「いつか、また会おうね。私、たぶんずっとここにいるから、また会いに来てよ」


「はい、必ず」


アリスティとベルニーが、互いを見つめあい……


やがて別れる。


それぞれの道を歩き出す。






別れは寂しいけれど。


一生、会えなくなるわけではない。


いずれ、きっとまた会える。


その日が来るまで、自分は全力で、進みたい道を進もう。


アリスティは、そう思い……


長い、長い旅路たびじへと、歩き始めるのだった。









―――――――――――――――――

あとがき:


ご愛読、ありがとうございました!

本作は、これで完結となります。


実は、本作は【追放令嬢、クラフトしながらキャンピングカーで異世界を旅します】という作品の過去編に当たります。


本作の時代から100年以上が経ったあとの未来の物語です。

アリスティがレギュラーとして登場しますので、よろしければ、キャンピングカーのほうもお読みいただけると嬉しいです!

  ↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330658105992517




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フレアローズの花 てるゆーぬ@キャンピングカー2巻発売中! @teru0024a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ