第4章76話:再会2

掘っ立て小屋の入り口に入る。


板張いたばりの上に、母が仰向あおむけに寝転び、休んでいた。


麻の布団をかぶっている。


アリスティは声をかける。


「お母さん」


「……え?」


母が、こちらに視線を向ける。


怪訝そうな顔をする。


「あら……私は、夢を見ているのでしょうか」


「夢じゃないわよ!」


と、ユーナがさけぶように言った。


「アリスティが帰ってきたのよ! 大陸から!」


その言葉に、母が、目を見開いた。


バッと、上体を起こし、立ち上がる。


アリスティは、思わず口元をおさえそうになった。


母の身体には、魔力病のまだら模様が、かなり広範囲に広がっている。


右手なんて、もう人間の色をしておらず、ひどい毒に汚染されているようだった。


「アリスティ……あぐっ……!?」


「お、お母さん!?」


母がいきなり苦しみだして、膝をついた。


激しく咳き込む。


かなり容態が悪そうだ。


「ふむ。魔力病が進行しているようだな」


と、ティルセアが母に近づく。


「だが顔全体に魔力色が広がってはいない。これならば、治療は可能だ。さっそく船の医務室で、治療をはじめよう」


「彼女はなんていってるの? アリスティ?」


と、ユーナが聞いてきた。


アリスティは答える。


「病気が進行してはいるものの、治せる、と言ってます」


「ほんと!?」


「はい。船の医務室に移送したいと言っています」


そうユーナに告げてから、アリスティは母を抱き起こそうとした。


それをティルセアが制止する。


「ああ。医務室に運ぶのは私がやっておこう」


「え? ですが……」


「君は、しばし、この島をめぐってくるといい」


と、ティルセアが提案してくる。


さらに、補足するように告げた。


「だって、ここは、君の故郷なんだろう? 今日を過ぎれば、次に来られるかはわからない。だから、島の景色をその目に焼き付けて、しっかり別れを告げることだ」


「ティルセアさん……」


「そうだな!」


と、いつのまにか、背後に立っていた船長が言った。


「島をめぐる程度の時間ならば、出航を待っておいてやる。だから、ゆっくり島に別れを告げてこい」


アリスティは、うなずいた。


今のティルセアの言葉と、船長の言葉を、ユーナに告げる。


ユーナは微笑んだ。


「良い人たちね」


と、ユーナは感想を述べる。


「それじゃあ、お言葉に甘えて、島を見て行きましょうか。あたしが付き合うわ」


「はい」


と、アリスティが賛成した。


アリスティはユーナとともに、掘っ立て小屋を出て、島を歩き始める。








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