第3章67話:山分け

そして、最後にタイラントワーウルフ。


セレーネが言う。


「アリスティが一人で持っていくべきだと思う」


アリスティは否定するように言った。


「いいえ。セレーネさんも戦っていましたし、半々にするのが妥当でしょう」


「なっ……妥当なわけないでしょ!? 何言ってるのよ」


セレーネが怒った。


彼女はため息をついてから続けた。


「タイラントワーウルフを討伐したのはあなたの手柄よ。あたしはほとんどダメージすら与えられなかった」


うーん……。


でも丸々貰まるまるもらっていくというのはなぁ……。


悩んでいるとオーファンが言ってきた。


「では魔剣のお嬢さんが2割、アリスティ殿が8割ってのはどうじゃ?」


サラも同意する。


「それが妥当かもですね~。アリスティさんがほとんど単独で討伐したのは誰の目にも明らかですから、半々というのは正当だとは思いませんが~、セレーネさんがしばらくタイラントワーウルフを牽制していたのは事実ですもんね~。その貢献度は加味されるべきですよ~」


牽制けんせいなんて、できなかったわよ」


セレーネが言うと、バルードが肩をすくめる。


「話の腰を折るなよ。要は貢献度の問題だ。2割と8割で分配でいいだろ。アリスティはどうだ?」


「はい。私はそれで構いません」


アリスティがそう答えたので、セレーネも渋々しぶしぶ納得した。


男性3人組の一人、角刈りが聞いてきた。


「解体作業はここでやるのか?」


バルードが答える。


「通常なら、その場でやるものだが……今回は領主様の依頼だからな。クレディアさんに決めてもらおう」


水を向けられたクレディアが答える。


「できれば死体をそのまま持っていけると助かる。一度、領主に預けてから、返してもらうという流れを取りたい」


サラが尋ねる。


「そのまま死体を没収されて返ってこない、なんてことはありませんよね~?」


「フリーナがそんなことをするものか」


クレディアは睨みつけるように言い返した。


オーファンは苦笑する。


「まあ、フリーナ様は心優しき領主と聞いておるし、心配することはなかろう。いったん預かってもらおう」


かくしてタイラントワーウルフ、グランウルフロードの死体についてはクレディアのアイテムバッグに保管されることになった。


分配についての話がひと段落した、そのとき。


「あの……」


いそいそと現れた5人の冒険者がいた。


見覚えがあるな。


……そうだ。


初日で離れていった班員だ。


男性が3人、女性が2人のパーティーであった。


いまごろやってきたのか。


その5人に向かって、バルードが言った。


「遅かったな。もう少し早く来てりゃ、報酬の山分けに加われたかもしれねーのに」


クレディアも追い討ちをかけるように言った。


「勝手に行動するからそうなるのだ」


5人の冒険者たちは悔しそうにしていた。


ともあれ、南西班は全員無事だということはわかった。


一人も脱落者が出なかったのは良かったんじゃないかな?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る