第3章65話:終幕

「ハァァッ!!」


アリスティが、タイラントワーウルフを圧倒する。


もはや一方的に打ちまくっているような状態だ。


「なんだ、これは……」


バルードがぽつりとつぶやく。


彼はタイラントワーウルフとグランウルフロードにやられて、大きなダメージを負っていたが、動けないほどではなかった。


それよりも。


目の前で起こっていることが信じられなくて、傷の痛みなど忘れていた。


「1対1で、タイラントワーウルフを圧倒してるだと? ありえねえ。俺はいったい何を見てるんだ……」


他の面々も、同様の感想を抱いていた。


クレディアとヒューリスも、驚きを隠せないでいる。


「潜在能力はピカイチだと思っていたが……まさかこれほどとはな」


「敵より先に動いてますよね? あんな戦い方してましたっけ」


「いいや……戦いの中で、何かが開かれたのかもしれない」


クレディアは、もともと、アリスティの戦闘能力は底知れないものがあると思っていた。


通常の徒手空拳だけでも恐るべき強さを持っていた。


だが――――


敵の動きを先読みする【当て勘】。


それを駆使し始めてからは、圧倒的だ。


強すぎて、タイラントワーウルフが相手にすらなっていない。


そして。


一番衝撃を受けているのはセレーネだった。


「こんなことが……」


長くを戦士として生きてきたセレーネにとって、強者との出会いは珍しいことではなかった。


しかし、このレベルの魔物を、単騎で圧倒する者なんて、見たことも聞いたこともなかった。


王国有数の冒険者でも、これほどの強さを持ち合わせているだろうか?


「あいつ、名前なんて言ったっけ……?」


セレーネにとってアリスティは、たまたま同じ戦いに居合わせた、初対面の女でしかなかった。


もっとも、アリスティのことは、名前は知らなくても、なかなかの手練れだとは思っていた。


グランウルフロードを3体倒したときに、その戦闘能力の高さは目にしていたわけだし。


しかし―――さすがにこれは予想外だ。


超威力のパンチをフェイントに使い。


敵の動きを誘導。


続く、本命のパンチは、超人的な【当て勘】による先読み。


もはや未来予知といえるレベルで、研ぎ澄まされている。


かわせない。


どれだけ速くても。


必ず当てられる。


タイラントワーウルフは馬鹿な生物ではない。


アリスティに勝てないことは、もう分かっているだろう。


それでも倒れず、グレートヒールで治癒しながら、立ち向かい続けるのは王者の意地か。


だが――――


それもいよいよ、終わりに近づいている。


アリスティの拳がタイラントワーウルフの肋骨を粉砕する。


片膝をつくタイラントワーウルフ。


魔力が尽きたか、もうタイラントワーウルフはヒールしない。


アリスティの拳が振りぬかれた。


タイラントワーウルフの顔面に直撃する。


その拳の圧力は、タイラントワーウルフの顔だけでなく、脳天にまで及び、頭脳を粉砕する。


タイラントワーウルフは、30メートルをもんどり打ちながら吹っ飛び、転がり、止まり。


やがて動かなくなった。


アリスティの勝利である。


かくして。


タイラントワーウルフとの激闘は、幕を閉じたのだった。




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