第3章64話:道

直後。


その言葉の意味を理解したのだろうか、タイラントワーウルフは疾駆した。


アリスティに向かって突撃してくる。


タイラントワーウルフは理解していた。


アリスティこそが、この場における最大の脅威だと―――――


毛並みが轟風とともに駆け抜ける。


アリスティは構え―――


拳を放つ。


「……」


タイラントワーウルフは難なく回避する。


これでいい。


今のはジャブ。誘導だ。


本命のパンチは、次。


「ハァッ!!!」


ココだ……!!


そう思った位置へ、身体を移動させながらパンチを放つ。


「……!!?」


タイラントワーウルフが驚愕におののいた様子がわかった。


なぜなら、タイラントワーウルフが回避した先に、拳が迫っていたからだ。


まるでアリスティが未来予知をし、先回りして拳を放ったかのような動き。


避けられない。


「グガアァッ!!?」


タイラントワーウルフの胸元にアリスティのパンチが直撃する。


タイラントワーウルフは吹っ飛び、もんどり打ちながら地面を転がった。


「なっ!!」


「ええ!?」


「なんと!?」


「まじかよ!?」


と、あちこちから驚きの声が挙がった。


「グルル……ッ」


タイラントワーウルフは苦悶くもんにうめきながら、起き上がる。


その身体に緑色の光が灯っていた。


【グレートヒール】である。


タイラントワーウルフは、強力なヒール魔法によって、自己を治癒できるのだ。


アリスティに負わされたダメージは軽くなかったが、グレートヒールであっという間に完治した。


(倒れるまで……殴る!)


そう心の中でアリスティつぶやき、


タイラントワーウルフに迫る。


「ふっ!!」


一発。


二発。


拳を放つ。


かわされる。


だが、これでいい。


二発連続の誘導。


三発目で、繰り出すのは――――


(ここ……!!)


相手の避ける先を予測して、あらかじめパンチを放っておく、驚異的な【当て勘】。


その当て勘をベースにした、超絶攻撃力の一撃が、タイラントワーウルフを襲う。


「グガアッ!!?」


タイラントワーウルフの腹に拳が突き刺さる。


「ハァッ!!」


打撃。


打撃。


打撃。


当て勘のパンチがタイラントワーウルフに炸裂し続ける。


そのたびタイラントワーウルフに回復されるが、アリスティは関係なく殴り続ける。


アリスティは、思う。


(考えてみれば、当然のことでした)


どんなに強い攻撃があっても。


どんなに破壊力があっても。


――――当たらなければ意味がない。


攻撃というのは、当たるからこそ、敵を討伐する戦力となりうる。


たとえ決定力のあるパンチを放っても、それが命中しなければ……


何もしていないのと同じだ。


(今なら、見えます……)


タイラントワーウルフの動きがえる。


次の動きを、予測できる。


タイラントワーウルフは速い。


でも、どう動くのかがわかっていれば、関係ない。


相手の動く先にパンチを放ち、先回りして攻撃を当てる――――


それは第三者には、まるで。


『アリスティのパンチに、敵がみずから当たりにいってる』ようにさえ見える、驚くべき予測攻撃。


回避することを許さない、必中のことわり







いつか。


遠い未来に。


必ず名をせる六人の英傑えいけつがいる。


大陸最強の六傑ろっけつ――――


その一人に加わることになる、最強のファイターが、ここに産声うぶごえをあげる。


相手の耐久も、防御も、関係なく。


拳の一撃で全てを破壊する、超人的な【攻撃力】。


そして。


その破壊的な攻撃を、絶対に命中させる【当て勘】。


二つの才能をあわせ、あらゆる近接戦闘において、無敵を誇る戦士。






その領域へと至る最初の一歩目を、アリスティは踏み出したのだ。


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