第3章63話:当て勘

――――次だ。


アリスティは走り出す。


次の標的は、バルードさんたちと戦っているグランウルフロード。


バフで強化されているため、かなり強くなっている個体だ。


だが、関係ない。


「ガウウ!!」


こちらの接近に気づいたグランウルフロードが、迎撃の構えを見せる。


アリスティに向かってグランウルフロードが疾駆してきた。


ジグザグの動きだ。


アリスティは、相手の動きを予想して、拳を放つ。


(ココ……ッ!!)


だが。


外れる。


グランウルフロードがアリスティの拳を回避し、攻撃を仕掛けてくる。


「……」


アリスティは、今の攻防を反省した。


そうか。


一発目で決めようとするとダメなのだ。


初手は、相手からも予測されやすい。


まず最初はジャブを放って、相手の動きを誘導し……


二撃目のパンチで仕留めるような流れが必要だろう。


「フッ!!」


さっそく試してみる。


グランウルフロードに拳を放つ。


しかし、この拳は誘導。


わざと避けられるように放った。


グランウルフロードが回避する。


そして、二撃目。


アリスティは、本命のパンチを放つ。


(ここ……ッ!!!)


グランウルフロードを追いかけるように、アリスティは身体を大きく移動させながら、パンチを放つ。


すると。


「ガウッ!!!?」


見事、グランウルフロードに命中した。


吹っ飛んだグランウルフロードが絶命する。


「ああ……」


と、アリスティは声を漏らす。


……コレだ。


これこそ、タイラントワーウルフに対抗できるアリスティの武器。


なんと呼んでいいのかわからない。


予想パンチ?


未来予測なぐり?


ううむ。


しっくり来る名称がない。


そのとき、バルードが言った。


「すげー【かん】だな。アリスティさん!」


「……当て勘? って、なんですか」


「ああ。【当て勘】ってのは、ココだ、と思う位置に、攻撃を仕掛けるセンスのことだ。打撃のタイミングを図る上手さをいうんだよ」


当て勘。


当て勘……か。


うん、しっくり来る。


そういう用語があるんだね。


アリスティは感心した。


「ありがとうございます、バルードさん」


「ん? お、おう。どうも?」


なぜお礼を言われたのかわからないバルードが、首をかしげる。


「……」


アリスティは、立て続けにグランウルフロードを撃破した。


その快進撃は、全員に空気として伝わる。


誰もが一瞬手を止めた。


タイラントワーウルフも、こちらに意識を向けた。


アリスティはタイラントワーウルフに顔を向け、告げる。


「もう一度、勝負です。タイラントワーウルフ」

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