第3章55話:戦闘開始

「こいつ! やりやがった!!」


バルードが怒りに任せて大剣を振るう。


グランウルフロードは軽々と回避した。


自分の仕事は終わったとばかりに、退避していくグランウルフロード。


アリスティたちを見る無数の目があった。


グランウルフたちの目。


自分たちの本拠地に足を踏み入れた侵入者に対する、警戒と敵意の目だ。


「あぁ……っ」


サラが絶望的な表情をした。


ヒューリスもガタガタと震えている。


戦士として覚悟が決まっている、クレディアやバルードですら、怯えの様子を隠せないようだ。


「ワシらは誘い込まれたようじゃな……」


オーファンが言う。


さきほどグランウルフロードの疾走を「遅い」と評していたヴァルガン。


彼の言う通り、グランウルフロードはゆっくり走っていたのだ。


わざとアリスティたちを引き離さないように。


この場所に引きずり込むために。


みんなに絶望の表情が浮かぶ。


そんな中。


一人、足を前に踏み出す者がいた。


「これは、逃げられないわね」


セレーネであった。


男性3人組の一人、短髪の男が言った。


「戦うのか……? 勝てるわけない!!」


「はっ、だったら死ぬだけでしょ」


セレーネが前方を見据えたまま、不敵に笑った。


「これはむしろチャンスよ! タイラントワーウルフをぶっ倒せば、あたしたちは英雄になれるわ」


そして肩越しにアリスティたちを振り返る。


「怖気づいたんなら、死んだフリでもしてなさい」


セレーネは小馬鹿にするように言ってから。


正面を向き、魔剣を横に構え。


全力で振りぬいた。


次いで発生するのは光の疾走。


紫光しこうがまるで蛇のごとくジグザグに滑空し、タイラントワーウルフに向かっていく。


タイラントワーウルフも、その脇に控えていたグランウルフロードも、余裕で回避した。


「ベティ!!」


「ガウッ」


ミニドラゴンが氷柱を発生させ、近くのグランウルフに向けて発射した。


その攻撃で、3体のグランウルフが地面に倒れる。


セレーネが敵に一人で突っ込んでいく。


これだけの魔物を前にしても、微塵みじんおくしていない。


たとえ一人でも敵を全滅させてやるのだと、その背中が語っていた。


その勇敢なる姿に、周囲の者も心打たれる。


最初にバルードが言った。


「俺としたことが、ビビってたみたいだぜ」


次にサラ。


「やるしかないってことですね~!」


クレディアに、ヒューリス。


「死ぬ覚悟などできていたつもりだが……少しばかり、怖気づいてしまったようだ。まだまだ精進せねばなるまいな」


「じゃあ、絶対生き残らなきゃダメですね!」


そしてオーファン。


「魔剣の娘ばかりに良いところを見せられては困るのう」


男性3人組も、士気をみなぎらせ、戦いを始めた。


ヴァルガンは何も言わなかったが、戦意が昂ぶっていることは見て取れた。


バルードが叫んだ。


「おっしゃあああ!! こうなったらやってやらァッ!! 俺たちを誘い込んだこと、後悔させてやろうぜ!」


全員が喊声かんせいを上げる。


そうしてグランウルフの群れに突撃した。





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