第3章53話:範囲魔法

「ダメだ! 敵が多すぎる!」


バルードがしびれを切らしたように叫んだ。


「このままじゃらちがあかねえ! 明らかにジリ貧だぞ!」


そのときセレーネがグランウルフロードにぶっ飛ばされて、アリスティたちの近くに転がってきた。


大丈夫かと心配になったが、すぐに立ち上がるセレーネ。


どうやら無事のようだ。


「くっ……なかなか倒せないわね。あんたらも状況が悪いみたいじゃない?」


セレーネの言い分に、オーファンが答えた。


「敵の目的は持久戦じゃな。時間を稼いでこちらを疲れさせるのが狙いじゃろう」


「めんどくさいウルフね!」


セレーネが吐き捨てるように言った。


「一匹ずつ狩るより、一気にケリをつけたほうが良さそうじゃ」


オーファンの言葉に、クレディアが尋ねる。


「何か手があるのか?」


「ホッホッホ。もちろんじゃ。ワシも無駄に長生きをしているわけじゃないぞい」


オーファンが笑ってから、全員に告げた。


みなよ! 一度ここに集まってくれ! ワシの魔法で敵を一掃いっそうする!」


その指示で、全員がグランウルフから離れ、こちらへと走ってくる。


幸いなことに、グランウルフたちは追撃せず。


様子をうかがいながらジリジリと距離を詰めてくるだけだった。


「セレーネ殿、結界魔法を張ってくれんか?」


「……なぜあたしが結界を張れるって知ってるのよ?」


「おぬしは魔剣使いじゃからなぁ。味方に被害が出ないようにする魔法も心得ていると思ってのう」


「ふうん? ま、その通りよ。しょうがないから張ってあげるわね」


セレーネが全員を包み込むような結界魔法を張った。


「これでいいのね?」


「十分じゃ。それでは、ワシが魔法を全力でぶっ放すゆえ、結界の維持は任せたぞ。セレーネ殿」


「了解」


オーファンが魔法杖を取り出す。


杖先つえさきを天に掲げ、唱えた。


「全てを飲み込め! ロックブラスト!!」


詠唱とともに発生したのは、巨大な球体であった。


高さ、幅、ともに10メートルはあるだろう空中の球。


そこから、巨大な岩の破片が無数に出現する。


その破片が、方向を問わず、全方位に拡散していった。


岩の破片がグランウルフたちに直撃し、串刺しにしていく。


アリスティたちは結界の中にいるので、ダメージを負うことはない。


(これは……すごい)


アリスティは素直にそう思った。


なるほど、この作戦が少数精鋭で行われた理由がわかった気がする。


これほど大規模な範囲攻撃は、人数が多すぎると実現できないだろう。


味方にまで巻き添えを食らわせてしまうからだ。


10人程度しかいないからこそ、全員が結界魔法の中に避難でき、オーファンの魔法をやり過ごすことができるのだ。


「やったかしら」


空中の球が消える。


結界が解けたあと、目の前に広がったのは、大量のグランウルフが地面に倒れ伏せる姿だった。


範囲攻撃が見事に成功したようだ。


一網打尽いちもうだじんである。


「いや、まだヤツが生き残っている!!」


クレディアが叫んだ。


彼女の視線の先にいたのは、グランウルフロードだ。


バルードが言う。


「樹木に隠れて破片を回避したんだろうな。つくづく判断の早い魔物だ」


「でもあと一体ですよ~! あいつ一匹なら――――」


サラが言いながら矢を放った。


グランウルフロードは軽々とそれを避けて、逃げていく。


「ああっ! 逃げられちゃいました~!」


「追いかけるぞ」


クレディアが言って、全員がうなずいた。


アリスティたちはグランウルフロードの後を追って、森の奥へと進んだ。





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